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連載・特集

国を超えて 平和首長会議総会を前に <上> 戦争の記憶 「わがことに」

 今から40年前、国を超えて都市と市民がつながり、核兵器廃絶の道を切り開こうと平和首長会議は発足した。冷戦下で生まれた平和のスクラムは、戦争で3度目の核兵器使用の危機が叫ばれる国際情勢にあって重みを増す。市民社会の結束で、核兵器も戦争もない世界へたどり着けるのか。広島市で19日に開幕する総会を前に、課題をみる。(小林可奈、宮野史康)

加盟は順調 活動に濃淡

 「いつもと違うぞ、起きろ、というお父さんの声。防空頭巾をかぶり、急いで外に出ました」。1日、東京都国立市役所であった戦争体験伝承者の修了式。伝承者となった沢村智恵子さん(62)=東京都青梅市=は、東京大空襲を下町で経験したという国立市民から聞き取った惨禍の情景を、約20人の出席者たちにまざまざと語った。

広島にとどめぬ

 2010年に首長会議に加盟した国立市。広島市に倣い、被爆者の証言を第三者が受け継ぐ伝承者事業を15年に始めた。地元の空襲体験も対象にし、これまでに32人を養成。小中学校などに派遣し、語り継いでもらっている。

 「伝承活動を被爆地だけにとどめていては核兵器のない世界を築く力にならない」と永見理夫(かずお)市長。被爆の実態を知るだけでなく、加盟都市が足元の戦争の記憶にも向き合うことで「その悲惨さをわがこととして考えられる社会づくりが必要だ」と言い切る。親族が広島原爆の犠牲者という沢村さんは「戦争を繰り返さないため、体験者の細やかな思いや経験を子どもたちに語り継ぎたい」と話す。

 1982年6月発足の首長会議には、国内の市区町村の99・8%に当たる1737市区町村(10月1日時点)が加わる。世界では166カ国・地域の8213都市(同)。20年までに核兵器全廃を目指すという目標を掲げた指針「2020ビジョン」を03年にまとめたのを機に加盟数を当時の562都市から飛躍的に伸ばし、数を背景に国際政治の場での発言力を強めた。

計画示されても

 ただ、右肩上がりで加盟数が増える中、その活動には濃淡がある。国立市は熱心な都市の代表格。一方で、首長会議事務局の広島平和文化センター(広島市中区)によると、行動計画に掲げる原爆ポスター展の開催について、過去5年間に実施報告があったのは延べ95都市にとどまる。

 「特に何もしていない」と話すのは、山口県内のある加盟都市の担当者。「行動計画を示されただけ。事務局から個別に要請があれば活動を検討する」と打ち明ける。

 こうした加盟都市の参加意識を高めようと、事務局は15年度から年2千円の「メンバーシップ納付金」を任意で集めているが、21年度の納付率は全加盟都市の2割に満たない。海外に限れば1割を切り、国内では6割という。これまで納めたことがないという中国地方の加盟都市の担当者は「財政に余裕がない中、市民に直結しない予算は厳選する」と理由を語る。

 首長会議は昨年7月、「2020ビジョン」の後継の指針「PXビジョン」で、市民社会での「平和文化の振興」を主要な目標に掲げた。長崎大核兵器廃絶研究センター(RECNA)の中村桂子准教授(核軍縮)は「都市に実践を促すために具体策をもっと提示するべきだ」と指摘し、こう提言する。「ウクライナ侵攻で核兵器使用への危機感は高まっている。身近な話題や現在の国際情勢と結びつけた取り組みが重要だ」

(2022年10月18日朝刊掲載)

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