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連載・特集

国を超えて 平和首長会議総会を前に <下> 「都市同盟」に国家の壁

核抑止頼み 変革なるか

 荘厳なドイツ・ハノーバー市庁舎に、白いハトの絵と「Peace(平和)」の文字をあしらった平和首長会議の旗がはためく―。ベリト・オナイ市長は2月24日、こんな1枚の写真を添えてツイッターでつぶやいた。「平和を求める人たちを支持する」。この日、ロシアのプーチン大統領がウクライナへの侵攻を表明した。

 首長会議事務局の広島平和文化センター(広島市中区)によると、副会長都市であるハノーバー市に呼応し、ドイツ国内の約30の加盟都市が1週間のうちに同様に首長会議の旗を掲げたという。取り組みの様子は交流サイト(SNS)でも拡散。欧州を中心に約140の都市が首長会議に新規加盟する機運をつくった。

政府と一線画す

 海外では165カ国・地域の6476都市(10月1日時点)が加盟する首長会議。うち核兵器保有国は北朝鮮を除く8カ国計641都市、欧米の「核同盟」である北大西洋条約機構(NATO)加盟国は保有国の米仏英以外にも27カ国計2840都市に上る。それぞれ自国政府とは一線を画し、核兵器廃絶への意志を示し続けてきた。

 「あらゆる都市が核攻撃の犠牲になり得るからこそ、核攻撃を受けた広島、長崎と世界の都市の連帯は重要だ」。NATOの一員であるベルギー・イーペル市のエミリー・タルペ市長は力を込める。広島、長崎の原爆の日に合わせ、今年8月6~9日に首長会議の旗を掲揚した。

 ただ、こうした都市の連帯の前に国家の厚い壁が立ちはだかる。核兵器使用の危機感が高まるウクライナ情勢を背景に、フィンランドとスウェーデンがNATO加盟を申請するなど、安全保障を核抑止に頼る動きは広がりさえしている。

NPT会議決裂

 8月に米ニューヨークの国連本部であった核拡散防止条約(NPT)再検討会議では、首長会議の副会長として長崎市の田上富久市長が議場で「核兵器のない世界」を訴えたが、ウクライナを巡る文言に異を唱えたロシアの反対で再検討会議は決裂。核軍縮などの方策をまとめた最終文書は採択されなかった。

 首長会議はロシアのウクライナ侵攻後、3月16日付で、早期終戦を願う声明を国連加盟国や首長会議加盟都市に送ったが、ほかに組織としての行動をとっていない。広島市は、日本国内でロシア側との交流事業を中止する自治体が相次ぐ中、ボルゴグラード市との記念事業をやめた。「ロシアがウクライナ侵略に踏み切ったことで、安心して実施できるか確信を持てない」との理由からだ。

 そのボルゴグラード市は19、20日に広島市である首長会議総会にオンラインでの参加を希望している。視聴のみで発言の予定はないという。

 自国がNATOに加盟するスペイン・グラノラーズ市のアルバ・バルヌセル市長は、この情勢下でも「都市の連帯を広げることは、国際社会の流れを変える力にもつながり得る」と強調する。国を超えた連帯を力としてきた「都市同盟」は、その結びつきすら阻む混迷の世界の中で、国家の壁を打ち破れるのか。理念にとどまらず、行動で示す時だ。(小林可奈、宮野史康)

(2022年10月19日朝刊掲載)

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