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社説・コラム

社説 平和首長会議 核廃絶へ連帯強めたい

 核兵器廃絶への道のりが険しくなっている状況だからこそ、取り組みを粘り強く進めなくてはならない。

 平和首長会議(会長・松井一実広島市長)はきのう、広島市での総会で、核兵器廃絶を訴える「ヒロシマアピール」を採択して閉幕した。

 ロシアによるウクライナ侵攻などで国際情勢は緊迫の度合いを増している。核兵器が使われる懸念が強まる中、「核廃絶へ向けた即時の行動を要請し、為政者の政策転換を促す」とアピールで強調したのは当然だ。

 広島市での開催は9年ぶり。核拡散防止条約(NPT)の完全履行などを保有国に求めるために、加盟する各都市が改めて結束を誓った意義は大きい。平和首長会議がこれまで以上に旗振り役となり、反核平和を実現する努力が欠かせない。

 会議ではロシアに対する非難が相次ぎ、核なき世界を願う決意も次々に示された。

 副会長都市の一つ、ドイツ・ハノーバー市の市長はビデオメッセージで、ドイツ国内の100都市以上が今年加盟したことを強調した。「首長会議は、都市が世界平和実現への願いを表すもの」と訴える姿に、勇気づけられた参加者も多かったのではないか。

 ただ、35年間も副会長都市を務めたロシアのボルゴグラードは今回、その座を降りた。ロシア国内の他の66都市も不参加になったのは残念だ。ロシアの加盟都市を再び会議の席に戻す働きかけも必要だろう。

 首長会議が1982年に「世界平和連帯都市市長会議」として産声を上げてからちょうど40年の節目だ。国家の枠を超えた都市の連帯で反核平和のうねりをつくり出そうと設立された経緯を忘れてはなるまい。

 核兵器使用で一番の被害に遭うのは都市や市民―。取り組みを通じて広がった世論は、中距離核戦力(INF)全廃という史上初の核兵器廃棄条約や、核兵器禁止条約の発効などを後押しした。ヒロシマ・ナガサキの悲劇を世界に伝える土台にもなった。

 加盟都市は1日現在で166カ国・地域の8213都市。核保有国にも広がっていることがそれを裏付ける。世界にとって平和がどれだけ大切か、核使用がどれほどの惨禍をもたらすのか。加盟都市が冷静に話し合い、その取り組みや議論の成果を世界に発信し続けることで、核廃絶を求める世論をさらに高める役割を担う。

 今回、会議の理念に賛同する輪を広げる「平和首長会議サポーター制度」創設も決まった。交流サイト(SNS)などで特に若い世代へ向けたアプローチを進めるという。被爆者がいない時代が近づく中、被爆体験を人類の「共有財産」にすることは大切な試みの一つである。

 大国の暴挙を止めることは確かに簡単ではない。グテレス国連事務総長もウクライナ情勢を念頭に「ヒロシマ・ナガサキの教訓が忘れ去られる危機」と警鐘を鳴らしている。

 長崎市の田上富久市長は「一歩前へ踏み出さないと見えないものがある。各都市と一歩前へ進みたい」と閉会あいさつで述べた。国の枠組みを超えて連帯する平和首長会議設立の原点に立ち返る。それが、核廃絶の道を切り開くはずだ。

(2022年10月21日朝刊掲載)

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