×

社説・コラム

天風録 『砲弾の埋まる島』

 台湾でナイフや包丁など刃物を作る工場を見学したことがある。熱した材料をハンマーで打ち、形作っていく。普通の製造工程に思えるが、材料に驚いた。砲弾の残骸なのだ。「砲弾鋼刀」という人気の土産品になっている▲その地は、台北から飛行機で西へ1時間の金門島。中国本土の目と鼻の先である。かつて国共内戦の最前線だった。64年前にも激しい砲撃戦に。1カ月半、本土側から数十万発が雨あられと降り注ぎ、大勢が死傷した▲10年ほど前に訪れた島はトーチカ、戦車が残り、学生バイトによる大砲陣地の再現ショーも。本土からの観光客の姿も目立った。戦争遺跡が観光資源となっていた。だが今、何となく落ち着かない空気があるかもしれない▲台湾統一へ「武力行使の放棄は約束しない」。異例の3期目に入り、中国の習近平総書記は語った。力を誇示する発言によって、けん制したいのか。上陸を想定したような演習まで実施し、世界の緊張感を高めている▲1強体制となり、誰もいさめないのか。ならば、習氏はロシア大統領を「反面教師」とすべきだ。台湾と砲火を交えてはならない。海峡の島に埋まる無数の砲弾を、思い起こせば分かるだろうに。

(2022年10月24日朝刊掲載)

年別アーカイブ