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社説・コラム

社説 習近平氏3期目始動 権力集中の危うさ憂う

 中国共産党の習近平総書記(国家主席)は、おとといまで開かれていた党大会で「1強」体制の土台を固め、異例の3期目をきのう始動させた。

 権力が集中すれば、独裁に陥りかねない。そんな歴史の教訓は捨て去ったのか。毛沢東時代に国内を混乱させた文化大革命の反省から、中国共産党は、個人崇拝を禁止し、集団指導体制を導入したはずだ。

 独裁支配が長期化して合理的な判断が続けられなくなれば、国民はおろか、国際社会を揺るがす恐れがある。ウクライナに侵攻したロシアの現状を見れば明らかだろう。独裁体制がいかに危ういか、直視すべきだ。

 5年に1度の共産党大会が「1強」長期化の道を開いた。全ての決議は、2千人を超す出席者のだれからも反対・棄権されずに採択された。習氏と距離のあった幹部まで忠誠を誓い、礼賛一色の大会となった。

 習氏の党での核心的地位と、その思想の指導的地位の「二つの確立」が全党に求められることも決まった。異論を唱えれば処分されかねない。党をイエスマン集団に変えたと言えよう。

 経済政策などを巡って習氏とは距離を保ち、ブレーキ役でもあった李克強首相と汪洋・人民政治協商会議主席を最高指導部から排除した。代わりに、習氏の地方時代の部下や側近を抜てきした。新たに加わった4人は全て自派という露骨さだ。

 69歳の習氏続投は「党大会時に68歳なら引退」という不文律破りである。腹心で固めた指導部と、50歳前後の将来世代を昇格させなかった中央委員の布陣を見ると、終身支配の思惑さえうかがえる。国家主席の任期を2期10年までと定めた憲法の規定は4年前に撤廃しており、勘ぐり過ぎではなかろう。

 危うさは、政治姿勢にもにじむ。きのうの会見で習氏は「中国式現代化により、中華民族の偉大な復興を全面的に推し進める」と強調した。目指すのは、世界一流の軍隊建設の加速など社会主義「強国」という。前時代的な発想に驚くばかりだ。

 とはいえ、足元では不安要素が目立つ。経済がここに来て伸び悩む。不動産などへの行き過ぎた投資に加え、新型コロナウイルスによる景気低迷が影を落としている。人口が減少に転じるのも間近だ。少子高齢化で労働人口は既に減り始めている。

 懸案の格差拡大にも歯止めをかけられない。感染防止で社会・経済活動を厳しく制限する「ゼロコロナ政策」で国民の不満も高まっている。過度な個人崇拝の押し付けに、指導部の判断ミスが重なるようなことが生じれば、混乱を招きかねない。

 外交面でも危うさを感じる。米国との対立を引き起こしている台湾の問題が、その一例だ。「党の歴史的任務」という統一について、習氏は「平和統一の目標は掲げつつ、武力行使の放棄は約束しない」と述べた。

 ただでさえ軍備増強や海洋進出で周辺国は警戒感や反発を強めている。その上、武力をちらつかせて脅すことは許されない。ロシアを反面教師に、大国としての自覚に基づいた冷静な振る舞いこそが求められる。

 経済面を含め、深い関わりのある日本としても、「1強」を憂うだけでは済むまい。米国や韓国などと連携しつつ、中国との対話の道を探るべきだ。

(2022年10月24日朝刊掲載)

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