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社説・コラム

天風録 『「おり鶴さん」を読む』

 産声を上げたばかりの西九州新幹線に乗った。部分開通ゆえに広島から在来線を挟み、2回乗り換えるが長崎までの時間は30分ほど短くなった。二つの被爆地の往来は次第に増えていくだろう▲その長崎で被爆した西山進さんの「おり鶴さん」を駅ビルの書店で買った。日本被団協の機関紙に40年以上連載した4こま漫画を集める。出版を見届けて今月、94歳で旅立った漫画家の生き方は正直よく知らなかった▲広島の故中沢啓治さんとはまた違う作風だ。爆心地から3・5キロの造船所で被爆した少年工は戦後、炭鉱などで働きながら漫画の道へ。4こまという手法で核廃絶に後ろ向きな国内外の政治を風刺し、運動を鼓舞した▲長崎の被爆者たちが出版を後押しした一冊。腰が重い歴代首相への数々の皮肉に加え、広島と長崎の被爆者が語り合い、思いを一つにする作品も目につく。執筆を重ねつつ連携が十分なのかを自問したのかもしれない▲広島・長崎両市が主導する平和首長会議は総会で「平和文化」を目標に掲げた。漫画も一つだろう。被爆者の体験を聞き、漫画にした若い世代は広島にもいる。作品を通じた交流で、被爆地同士の心理的な距離をもっと縮めたい。

(2022年10月25日朝刊掲載)

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