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社説・コラム

社説 英首相にスナク氏 経済低迷どう立て直す

 混乱する英国の再生を果たすことができるだろうか。

 新しい英首相にインド系のリシ・スナク氏が就任した。米金融大手ゴールドマン・サックス出身の経済通。20世紀以降では最年少の42歳である。

 若さもさることながら、かつての植民地由来の人物が宗主国の首相にまで上り詰めたことに驚く。国王が首長を務める英国国教会からすれば、異教徒であるヒンズー教信者でもある。

 社会の多様性を感じさせる起用は、英国の懐の深さゆえだろう。米国やインドからは早くも期待の声が寄せられている。

 だがジョンソン元首相の後継争いに敗れて2カ月もたっていない。先週、退陣表明したトラス前首相の失政で首相の座が転がり込んできたのも事実だ。

 英下院は保守党が過半数を占める。その政権与党が民意を問うこともなく、党首をすげ替えた交代劇には国民の批判も強い。新政権がどれだけ指導力を発揮できるかは見通せない。

 英国は年率10%を超す、激しいインフレに見舞われている。欧州連合(EU)離脱に伴う深刻な人手不足にも悩んでいる。混迷する経済を立て直すことが政権の最優先課題になる。

 トラス氏は7兆円を超す大型減税策を打ち出し、経済成長による難局打開を訴えた。だが、通貨、国債、株のトリプル安を招き、あっという間に支持を失った。財源の裏付けを示さない手法が、市場の不信を招いたのは当然と言える。

 スナク首相は党首選後も、その減税策を「おとぎ話」とこき下ろしてきた。財政規律を重視した政策に当面は取り組むことになろう。だがインフレ下で過度な財政再建を進めれば、かえって消費は冷え込みかねない。物価高に立ち向かいながら、財政状況を好転させるという難題には、慎重さも必要だ。

 わずか7年の政治歴では経験不足と言う指摘もある。ジョンソン氏に財務相に起用されながら途中で辞任し、政権崩壊をもたらした「裏切り者」との批判も受けた。1千億円を超す資産家であり、過去には「労働者階級に友人はいない」などと放言して庶民の反発も買っている。

 先の党首選では多くの党員が減税を公約に掲げたトラス氏を支持した。独断専行ばかりでは党員たちが再び手のひらを返すこともあり得る。政権運営には謙虚さを忘れてはなるまい。

 保守党は10年以上政権を担っているが、この6年間で首相が5人も交代した。今回、ジョンソン氏が返り咲きを模索した影響も小さくない。不祥事で退陣した元首相が2カ月後に復権を狙うような厚顔ぶりに、嫌気が差した国民も多いはずだ。

 保守党の支持率は低迷し、野党労働党に大きく先行されている。このままでは次の総選挙で苦戦は免れまい。スナク首相が託されたかじ取りは極めて難しいと言わざるを得ない。

 ロシアによるウクライナ侵攻やコロナ禍でインフレが進み、世界は対策に腐心している。物価高と通貨安に直面する日本も状況は英国と変わらない。

 岸田文雄首相はあすにも総合経済対策をまとめる予定だ。財源の裏付けを欠く「ばらまき」ではトラス氏の失敗を繰り返すことになる。経済政策は一歩誤れば政権の崩壊にもつながる。対応を侮ってはならない。

(2022年10月27日朝刊掲載)

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