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社説・コラム

キューバ危機60年 長崎大・鈴木教授に聞く 核戦争回避に被爆地の声を

世界首脳らの訪問も重要

 キューバ危機から60年を経て再び核兵器使用のリスクが高まるいま、被爆地の役割とは何か。長崎大核兵器廃絶研究センター(RECNA)の鈴木達治郎教授(核軍縮・不拡散政策)にオンラインでインタビューした。核戦争の回避に向け世界へ「ヒロシマ、ナガサキの声」を届ける重要性を訴える。(小林可奈)

  ―キューバ危機と比べ、現在のウクライナ情勢をどう見ますか。
 核兵器使用のリスクは当時より高まっている。核兵器の技術は向上し、より正確に標的に撃てるようになった。戦争を終わらせるため、ロシアは小型の戦術核を使った「限定核戦争」を考えている可能性がある。60年前と同様、核戦争を避けるための外交交渉を米国とロシアが進めるべきだ。

  ―この60年間で核兵器を巡る国際情勢はどう変化しましたか。
 米ソ冷戦後、米国は「世界の警察官」として通常兵器による最強の軍事力を持った。その米国に対抗し、ロシアは核兵器に回帰し、中国や北朝鮮も核戦力を強化してきた。

  ―被爆地が果たしてきた役割は。
 例えば、1963年に調印、発効した部分的核実験禁止条約(PTBT)は、キューバ危機を教訓に米国やソ連の首脳が合意した。米国のビキニ水爆実験を契機とした原水爆禁止運動が大きな影響を与えたとされる。運動を広げる中で被爆地の声は重要な役割を果たしている。

  ―一方で、「核の脅し」は繰り返されています。
 核抑止論が根強く残る現状で、核兵器の非人道性が十分伝わっていない。だからこそ被爆地は言い続けるしかない。「核兵器が使われた場合、長期にわたる苦しみを、あなたやあなたの家族が味わうかもしれない」と。この訴えを広げるためには、高齢化した被爆者ばかりに頼っていてはいけない。

  ―どうすれば「被爆地の声」を届けられますか。
 世界のリーダーの被爆地訪問を増やすことが求められる。来年5月に広島市である先進7カ国首脳会議(G7サミット)で、首脳たちが被爆者の証言を聞くよう、日本政府は努めなければならない。

 より多くの人が核問題に関心を持つよう、持続可能な開発目標(SDGs)や環境破壊などと関連させて活動を広げるのも重要だ。生存する被爆者がいなくなる時代に備え、被爆の実態を世界や次世代に伝え続ける新たな方法を考える必要がある。

キューバ危機
 ソ連は1962年、米国が打倒を目指すキューバのカストロ政権を支援しようと、中距離核ミサイルを搬入。ケネディ大統領は同年10月22日に事態を公表し、ミサイル基地撤去を求めキューバを海上封鎖した。米国はキューバからのミサイル攻撃はソ連からの攻撃と見なし報復すると宣言、核戦争の緊張が高まった。国連安全保障理事会での協議などを経て米国はキューバに侵攻しないと約束。ソ連のフルシチョフ首相が28日に基地撤去を通告、危機は収束した。

(2022年10月28日朝刊掲載)

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