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核抑止継続を不安視 政府は役割果たせず 米の体制見直し 被爆者ら怒り

 バイデン米政権は27日、核戦略指針「核体制の見直し(NPR)」を公表した。ウクライナに侵攻したロシアのプーチン大統領が核兵器使用をちらつかせ、世界の安全保障環境が厳しさを増す中、核抑止力は「米国の最優先事項」だとした。中国、北朝鮮の脅威にも対処するため、日本や韓国など同盟国への「核の傘」を強化するとした。核を核では抑えられない―。広島の被爆者や市民から怒りと失望の声が上がった。

 「期待感を抱いていたが、当初の姿勢を貫けなかった」。広島県被団協の箕牧(みまき)智之理事長(80)は憤る。一時は、核兵器の使用を敵の核攻撃阻止や反撃に限る「唯一の目的」宣言が検討されていただけに「世界の流れにあらがえず、核抑止力を継続していくことが不安だ」。

 NPRでは同盟国の「核の傘」の強化も含む。もう一つの県被団協の佐久間邦彦理事長(78)は「核兵器のない世界に向け、保有国と非保有国の『橋渡し役』を果たすという日本政府の役割が果たせていないのが露呈した」と、自国政府にも批判の矛先を向ける。

 世界ではウクライナに侵攻したロシアによる核兵器使用の懸念が高まっている。広島県の若者たちでつくる「核政策を知りたい広島若者有権者の会」(カクワカ広島)の田中美穂共同代表(28)は「米国に『核兵器が使われるかもしれない』という切迫感がない。ロシアを非難する割に使われないと信じ込んでいる」と不安を募らせる。

 「キューバ危機以上の危機だ。もう脅しで済まない状況では」と案じるのは、NPO法人ANT(アント)―Hiroshima(広島市中区)の渡部朋子理事長(68)。米ソが核戦争を瀬戸際で回避した外交努力を引き合いに「今こそ理性的に冷静に、危機のエスカレートを防ぐべきだ。核兵器を使うリスクを下げなければ、人類に明日はない」と警告した。(小林可奈、宮野史康)

(2022年10月28日朝刊掲載)

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