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社説・コラム

社説 イタリア新政権 国際協調の重み自覚を

 イタリア初の女性首相にメローニ氏が就任した。9月の総選挙で第1党となった右派「イタリアの同胞」(FDI)の党首である。ベルルスコーニ元首相が率いる中道右派「フォルツァ・イタリア」や右派「同盟」と連立政権を組んだ。

 かつての独裁者ムソリーニを仰ぎ、「極右」「ポピュリスト」と目される。欧州連合(EU)にも批判を繰り返してきた経緯を踏まえれば、政権に対する周りの不安は大きかろう。対ロシア制裁の足並みを乱しかねないと、危ぶむ声がEU各国から聞こえたのも無理はない。

 幸い、メローニ首相は就任後、EU寄りの現実路線をひとまず示している。先進7カ国(G7)の一員としても、国際秩序づくりの責任を引き続き果たしてもらいたい。

 新政権の優先課題は、経済の立て直しと政局の安定だろう。FDIは、財政再建の半ばで倒れた前政権に主要政党で唯一加わらず、総選挙では聞こえの良い公約を並べて勝利した。

 物価高に対する国民の不満を追い風に政権を奪っただけに、経済対策は後回しにできまい。公約通り、大型減税や経済支援策を急ぐとみられる。

 だが財政状況は極めて悪く、「ばらまき」政策には危険もつきまとう。イタリア国債が市場の信認を失えば、英国のトラス前政権と同じ道をたどることも否定できない。

 化石燃料の3割近くをロシアに依存していることも、懸念材料だろう。対ロシア制裁に伴う原油や天然ガスの調達難が長引けば、物価の高騰はさらに深刻となるに違いない。

 実際に今月初めにはロシアからイタリアへの天然ガス供給が一時停止される事態も起きた。制裁の見直しを促すロシア側の思惑があるとみられるが、国民の不安が高まれば、支持をつなぎ留めるためにメローニ政権がロシアと妥協する方向に方針転換しないとも限らない。

 原油や天然ガス欲しさにウクライナ侵攻を黙認すれば、国際秩序は崩壊する。ロシアを利するだけである。連立相手のベルルスコーニ氏はロシアのプーチン大統領と親密で、「同盟」もロシア与党と協力関係が深い。ロシアになびかせないよう、連立政権をまとめ上げる力も首相には欠かせない。

 EU内では、イタリアに限らず、国民の不満が渦巻く。9月にはスウェーデンの総選挙で極右の民主党を含む右派勢力が勝利した。フランスも総選挙で極右の国民連合が躍進。ハンガリーでもプーチン氏に近いオルバン首相の右派連合が議会選で勝利している。

 こうした右派やポピュリズムの政党に共通するのは、自国優先主義や移民排斥、LGBTなど性的少数者の人権軽視にほかならない。不満を吸い上げる旗印となり、民主主義がないがしろにされかねない。

 その怖さをイタリアは100年前に味わったのではなかったか。ムソリーニの独裁を許すことになったファシスト党の「ローマ進軍」である。

 自国優先主義がはびこれば、世界の分断は進んでしまう。国民の不満と向き合いながらも、辛抱強く国際社会と歩調をそろえていけるか。新政権は世界中から、目を向けられていることを忘れてはならない。

(2022年10月30日朝刊掲載)

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