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連載・特集

[ヒロシマの声 NO NUKES NO WAR] 健康不安 今なお続く 胎内被爆者 寺田美津枝(てらだ・みつえ)さん(76)=広島市安佐南区

  ≪2014年、胎内被爆者として証言活動を始めた。原爆の爆風を浴び、両目にガラス片が入り失明した母の福地トメ子さん(13年、94歳で死去)の無念さも抱いて、戦争と原爆のむごさを訴え続ける。≫

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 母が広島駅近くで原爆に遭った時、妊娠5カ月でした。おなかの中には私がいました。私は胎内被爆者と呼ばれます。そう、生まれた時から被爆者です。核兵器は恐ろしい。放射線はDNAを傷つけ、胎児にまで影響を及ぼす恐れがあることを、世界の人に伝えなければと思います。

 妊娠初期に強い放射線を浴びると、子どもは知的、身体障害がある「原爆小頭症」になる場合があります。がんを患い、何度も開腹手術をした人もいます。

 さらに子や孫にも健康被害が及ぶかもしれない―。被爆者はそんな不安から逃れられない。放射線被害の遺伝的な影響が今なお解明されていないからです。胎内被爆者の中にも、妊娠をしたとき親族から中絶を迫られた人がいます。私も子どもを産む時、怖かった。「ちゃんと指はありますか」と看護師さんに聞いたことを覚えています。

 私自身は何とか無事に生きてきました。でも、当事者の一人として声を上げなければ―。母の一生を見届け、そう思うようになりました。

 26歳で視力を失った母。その暮らしは大変でした。乳首を赤ん坊にくわえさせられず苦労したそうです。かまどでご飯を炊くのも大変で、前髪を焦がしながら料理をしていました。30歳で点字とマッサージを学び整体治療院を開き、家族のために働いてくれました。私の顔を知らない母の無念さ、苦しみにも、どうか思いをはせてほしい。

 原爆は大勢の人生を奪い、狂わせます。ロシアは核兵器を脅しの道具にしている。許せない。核が使われたら、影響は長く続くんです。そのむごさを世界はもっと知ってほしいのです。(聞き手は編集委員・東海右佐衛門直柄)

(2022年11月3日朝刊掲載)

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