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連載・特集

緑地帯 野木京子 詩という友達と私⑥

 パンデミックになる少し前、東京の本郷へ出向いた。編集者と数人での「現代詩文庫 福井桂子詩集」の打ち合わせだ。私がずっと刊行を願っていた本で、編集も手伝うことになった。

 福井さんは東北の人で、人がこの世に存在することの不安と根源的な寂しさを書き続けた詩人。私は友人たちと闘病中の福井さんにインタビューしたこともある。それが最初で最後のお会いする機会となった。その2カ月後の2007年9月に亡くなられたからだ。

 その「現代詩文庫 福井桂子詩集」に収録する解説文を私は書くことになり、コロナ禍の間しばらくそのことで頭が一杯だった。私が書けなくて、せっかくの詩集のマイナスになってしまったらどうしよう。書くときはいつも不安だ。なんとか締め切りまでに書き終えることができて、ほっとした。

 福井さんは、詩人で小説家の三木卓さんの奥さんでもある。三木さんは福井さんの没後に「K」という、亡き妻への鎮魂の書を書かれた。「K」は大変な話題になった。私が想像していた福井さんの姿とは違う激しさがあり、衝撃的でもあった。インタビューにお邪魔したときのことも、三木さんは描写してくださっていた。

 福井さんは亡くなる直前まで詩を書かれたという。入院先で、衰弱した体で画板を使って言葉を記されていたというのだ。私もそのような状態で詩を書けるだろうか。死んでしまえば何もかも失ってしまうのかもしれないけれど、最後まで詩を手離したくないという願いも私にはある。そうできる自信はないが、福井さんの姿を目標にしたい。(詩人=横浜市)

(2022年11月8日朝刊掲載)

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