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社説・コラム

社説 米中間選挙 国際協調ほころび懸念

 米中間選挙は、連邦議会下院で野党共和党が与党民主党を上回るペースで議席を伸ばした。上院も大接戦で開票が進んだ。共和党が上下両院のどちらかで勝利すればバイデン政権は議会との「ねじれ」を抱え、難しい政権運営を迫られる。ロシアのウクライナ侵攻をはじめ世界的に緊張が高まる中、国際協調路線のほころびが懸念される。

 約40年ぶりの記録的なインフレを背景に、バイデン政権は国民から厳しい評価を示された形だ。そもそも中間選挙は、政権への信任投票の色彩が濃い。現職大統領のいる政党が不利とされる。下院には、政権高官らの弾劾訴追の権限があり、民主党が過半数割れすれば、激しい政争につながる可能性がある。

 多数派奪還を狙う共和党は、トランプ前大統領が州知事選を含めて200人以上の候補者を推薦し、自ら前面に立った。「陰の主役」とも呼ばれ、演説では「米国を再び偉大な国にしよう」と繰り返した。2年後の大統領選への立候補が視野にあるのは明らかで、影響力が一定に強まりそうだ。

 同盟国にとって何より気になるのが、外交政策への影響だ。とりわけ、ロシアの侵攻を受けるウクライナへの支援を巡っては、国内で物価高が続く中で巨額の支援を続けるべきではないとの異論が、共和党内で広がっている。欧米諸国の軍事支援の7割近くを米国が賄っている実態を見直し、縮小する可能性が指摘される。

 国際法違反が明らかなロシアの暴挙にウクライナが対抗できているのは、米国をはじめ国際社会の支援によるところが大きい。包囲網が揺らげば、ロシアの思うつぼではないか。

 思い出されるのはトランプ前政権の独善的な振る舞いだ。温暖化対策を巡るパリ協定や環太平洋連携協定(TPP)、世界保健機関(WHO)、イラン核合意など、国際的な枠組みから次々と離脱し、混迷をもたらした。

 政権を引き継いだバイデン氏はこの2年、国際関係の修復に力を注いだ。もし、中間選挙の結果を受けて求心力が低下すれば、民主主義陣営のリーダーとしての対外関与がおろそかになりかねない。

 ましてや、ロシアが核兵器使用をちらつかせ、威嚇を続けている。中国が台湾への軍事圧力を強め、北朝鮮が弾道ミサイルの発射を繰り返すなど緊迫が高まっている。核軍縮に見向きもせず、小型核兵器の開発も進めた前政権への回帰が進むことに危うさを感じざるを得ない。

 「融和」を旨としてきたバイデン氏は、選挙戦でトランプ氏の攻勢を、受けて立った。インフレ・経済政策のほか、人工妊娠中絶や移民政策、銃規制といった国を二分するテーマで激しい論戦を繰り広げた。

 共和党では、2年前の大統領選でのトランプ氏敗北を認めない「選挙否定派」が勢力を伸ばした。バイデン氏が「民主主義の危機だ」と批判してきた相手で、党派分断の根深さを改めて露呈した。

 バイデン氏は原点を忘れず、外交、内政の両面で融和の道を探っていく必要がある。日本も同盟国として、ウクライナ支援への毅然(きぜん)とした対応を働きかけ、国際協調路線を後押ししていかなければならない。

(2022年11月10日朝刊掲載)

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