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社説・コラム

いかに生きるか 小林秀雄に学ぶ 浜崎洋介氏著書 山本七平賞奨励賞 直観信じた過程たどる

 山本七平賞(PHP研究所主催)の奨励賞に、文芸批評家浜崎洋介氏(44)=東京=の「小林秀雄の『人生』論」(写真・NHK出版)が選ばれた。「近代批評の祖」とされる小林秀雄(1902~83年)の歩みをたどり生きる指針を探った。浜崎氏は「いかに幸福を得るか。『直観』を信じるという小林の考えは現代人にも通じる」と思いを込める。

 本作は明治維新以降の急速な西洋化で伝統が失われ、近代日本人が自己喪失感を抱えていたと指摘。どうすれば充実して生きられるのか―。小林自らが問い、思考した過程を本人の言葉から論じている。

 「僕自身が小林たち批評家の言葉に救われてきた」と浜崎氏。学生時代、資本主義経済や国家に対抗する新たな社会運動に関わったが、運動は数年でついえた。「相当落ち込んで、何もできなくなった」。状況を打開するヒントにしたのが、歴史や言葉、故郷など自身の土台を見つめ直すという小林の考え方だった。

 東京工業大大学院で近代日本文学を学んでいた頃、政治と文学をテーマに、小林の言葉から修士論文を書き、今も読み返す。「小林の文章は難解なイメージだが、全体像がつかめるはず」。受賞した著書を小林論の超入門講義と銘打つ。

 埼玉県生まれ。幼少期から小学5年まで広島市佐伯区で育った。平和主義の理想と、被爆者の置かれた厳しい現実とのギャップを強く感じていたという。「なんか違うな、息苦しいなという思いがあった。そういった苦しみを核心的に書いていたのが文学だった」

 東工大大学院博士課程修了。2011年に「福田恆存(つねあり) 思想の<かたち>」でデビューし、他の著書に「三島由紀夫 なぜ、死んでみせねばならなかったのか」などがある。日本大の非常勤講師も務める。

 15日、都内で奨励賞贈呈式に臨む。「読者が小林の本を1冊、手に取るきっかけになれば。今後も人の心を打つような本を書き続けたい」(山本庸平)

(2022年11月10日朝刊掲載)

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