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国連委採択の決議 ピースデポ梅林さんと読み解く 日本の核廃絶決議 軍縮に「弱さ」

 米ニューヨークの国連本部で開かれている国連総会の軍縮や安全保障を議題とする第1委員会は、七十余りの決議案を採択して4日に日程を終えた。日本政府が提出した今年の決議案は、初めて「核兵器禁止条約」の文言を盛り込んだことで注目された。この委員会の動向を長年分析してきたシンクタンク「ピースデポ」(横浜市)の梅林宏道特別顧問(85)とオンラインで議論しながら、注目すべき決議案を読んだ。核兵器廃絶を目指す上での世界と日本、被爆地の課題を探る。(金崎由美)

NPT最終文書 評価割れる

 日本は1994年から毎年、核兵器廃絶決議案を提出している。米国の「核の傘」に依存し、近年は禁止条約から距離を置く立場が色濃いと批判されてきた。今年のタイトルは「核兵器のない世界に向けた共同のロードマップ構築のための取組(とりくみ)」。核拡散防止条約(NPT)の重要性や、世界の指導者と若者による被爆地訪問の意義を強調した。また、禁止条約の採択を「認識」し、今年6月の第1回締約国会議の開催に「留意」するとした。

 決議案は、主導国が有志国を募り共同提出することが多い。投票での採択も、無投票での採択もある。票は賛成、反対、棄権の3種類で、文面の段落ごとに賛否を問う個別投票も可能。決議案について各国が意見を述べたり投票理由を説明したりする機会もある。採択後は本会議に回される。

 日本の決議案は、核保有国の米国を含めた共同提案国が52に上った。結果は賛成139で、反対は北朝鮮、シリア、ニカラグアなど6。棄権31。林芳正外相は1日の記者会見で「さまざまな立場の国から支持を得て採択されたのは大きな意義がある」と述べた。

 ただ、前文と本文の約30段落のうち17段落について個別投票が行われた。他の決議より非常に多い。「被爆国の提案を尊重しつつ、どうしても賛同できない部分があるという各国の意思表示」と梅林さんは語る。

 では、日本の決議案は禁止条約に熱心な国にどう映ったのだろう。オーストリア、ニュージーランド、南アフリカ、アイルランド、コスタリカ、マレーシアに注目してみた。

 昨年は6カ国とも全体投票で棄権票を投じたが、今年はオーストリアとニュージーランド、アイルランドが賛成した。梅林さんは「禁止条約への言及が評価された」とみる。

 だが個別投票では棄権票や反対票を投じている。その一つが今年8月のNPT再検討会議を評価する段落だ。

 ロシアの反対で決裂し最終文書案を採択できなかったことは記憶に新しい。日本の決議案は、最終文書案の内容自体は評価する立場で、「2026年の次回再検討会議へ、この文案に立脚して前進を」と呼びかける。アイルランドを除く5カ国が棄権か反対。他の国の賛同も96にとどまった。

 決裂を回避しようと最終文書案に盛り込む核軍縮の方策が「妥協の産物」となっていったことへの不満と危機感は、それだけ強いようだ。ニュージーランドは「将来前進できるよう、可能性の扉を引き続き開けただけ」として棄権した。

 6カ国とも賛成しなかったもうひとつが、核兵器の完全廃棄は「安全保障を損なわず、強める原則に基づいて」進めるとする段落だ。安全保障の強化が核軍縮より先、と読める。核保有国や同盟国がよく使う言葉だ。オーストリアは、順番は逆で「核軍縮を進めてこそ安全保障が強化される」と反対した。

 初めて日本の決議案に入った「核兵器禁止条約」の文字。全体投票で棄権に回ったマレーシアは、この点を評価しつつ「総じてバランスを欠く決議案を修復する万能薬にはならない」と発言した。核軍縮を保有国に迫るには不十分で、「条約」の一言さえあればいいのではない、との念押しだろう。南アフリカは「軍縮という緊急的課題をないがしろにした」と反対票を投じた。梅林さんは「重く受け止めたい。広島を含む日本の私たちは、同じだけの危機感を持っているか」と自らの足元をも問う。

禁止条約推進国提出案への対応

核依存の現状では限界

 禁止条約の推進国が提出した決議案に、日本はどう対応したのだろうか。

 オーストリアが主導した「核兵器の非人道性」は、禁止条約が実現に向かう端緒となった10年ほど前からの国際的な潮流を踏まえた決議。だが「核兵器禁止条約」という言葉は入っていない。

 日本は昨年に続き賛成した。小笠原一郎軍縮大使は「唯一の戦争被爆国として核使用がもたらす人道上の結末を十分認識している」と議場で述べた。

 同じくオーストリアが主導する「核兵器禁止条約」決議は、全ての国に条約署名と批准を求める。日本は反対。「岸田文雄政権でも投票方針に目立った変化はない」と梅林さんは断じる。

 ただそれは、日本だけでない。6月にあった禁止条約の締約国会議には、欧米の核同盟である北大西洋条約機構(NATO)加盟のドイツやノルウェーなどがオブザーバー参加した。だが今年も決議に反対だ。

 後退へとかじを切ったのが、やはりオブザーバー国のフィンランドとスウェーデンだ。ロシアのウクライナ侵略を受け、締約国会議の前にNATO加盟を申請した。

 両国は、「非人道性」決議案に昨年は賛成したが今年は棄権。昨年棄権だった「核兵器禁止条約」決議案に今年は反対した。「核兵器の使用と威嚇は一般的に国際法に違反する」とした1996年の国際司法裁判所(ICJ)の勧告的意見に基づく決議に至っては、スウェーデンは賛成から一気に反対に転じた。

 来年、広島で先進7カ国首脳会議(G7サミット)が開かれる。7カ国は核保有国と、同盟国の「核の傘」に依存する国ばかり。被爆地から「核兵器ゼロ」を発信する決意の本気度は―。各決議を見る限り、展望は決して明るくない。

(2022年11月15日朝刊掲載)

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