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社説・コラム

社説 日韓首脳会談 対話の重み 肝に銘じよ

 一衣帯水の隣国なのに3年も正式な会談がなかった。それ自体を異常と考えるべきだろう。岸田文雄首相がカンボジアで韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領と初の正式な首脳会談を行った。

 2019年12月、当時の安倍晋三首相と文在寅(ムン・ジェイン)大統領が中国で会談したのを最後に、両国の首脳が会話を交わしたり、懇談したりする場面はあっても「非公式」にとどめてきた。

 最大の懸案である元徴用工訴訟問題で日本企業に賠償を命じた韓国最高裁の判決確定から4年。こじれにこじれ、戦後最悪とされた日韓関係の修復が曲がりなりにも進むなら喜ばしい。

 日米韓、日米の首脳会談とセットとなった日韓の対話は同盟国の隙間風を和らげたい米バイデン政権の意向を映していよう。ただ雪解けへの布石を両国が打ってきたのは確かだ。

 韓国は5月に尹大統領が就任以来、前政権下で冷え込んだ日韓関係の改善を公言している。今月に入ってからは麻生太郎自民党副総裁が訪韓して大統領と会談したほか、海上自衛隊の国際観艦式に4年前の自衛隊機へのレーダー照射問題で関係が悪化した韓国海軍が参加した。対話ムードは高まっている。

 問題はこれからだ。首脳会談では、肝心の元徴用工訴訟問題は「外交当局間の協議加速を踏まえ、早期解決を図る」との方針で合意した。年内決着を視野に入れるようだが、明確な見通しが立ったとはまだ言い難い。

 韓国政府としては敗訴が確定した日本企業の賠償分資産を原告側が「現金化」する代替として韓国の財団が肩代わりする案を軸にしたいという。そこに日本企業の拠出を求めるのかどうか。原告や対日強硬論の野党の理解を得られるか―。梨泰院(イテウォン)の雑踏事故で批判を浴びる尹政権の求心力低下も懸念される。

 同じようなことは岸田政権にも言えよう。相次ぐ閣僚の更迭もあって政権の体力がじわじわと奪われていく中で、韓国側には一歩も譲歩すべきではないと強硬論を唱える自民党の保守派を抑えられるだろうか。

 確かに日本政府としては1965年の日韓請求権協定で「解決済み」とする原則は後退させにくい。ただ交渉のテーブルに着き、韓国側の提案に耳を傾けた上で知恵を出し合う外交努力は必要だろう。過去の植民地支配も踏まえれば、歴史への謙虚な姿勢は忘れたくはない。

 そもそも現在の東アジア情勢を考えると、日韓がいがみ合っていられる状況ではない。

 軍事大国化し、台湾海峡をにらむ中国の動向もさることながら目下の気がかりは北朝鮮への対応である。10月に日本上空を飛び越えるなど異例のペースで弾頭ミサイルを発射している。米韓軍事演習への対抗措置という側面はあるが、7回目の核実験が近いとの観測もある。

 悲しいかな朝鮮半島で核ミサイルの脅威が現実のものとなりつつある今、韓国と協力しない選択肢は日本にはなかろう。

 両国には、3年前に日本が発動した韓国への半導体材料の輸出管理措置という火種もくすぶったままだ。しかし見解に対立点があったとしても民主主義を掲げる隣国同士である。対話を重ね、着地点を見いだす余地はあるはずだ。首脳会談の定期化も含め、政府間の相互往来の機会を増やしてもらいたい。

(2022年11月15日朝刊掲載)

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