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社説・コラム

『この人』 谷本清平和賞を受けたNPO法人「ANT(アント)―Hiroshima」理事長 渡部朋子(わたなべともこ)さん

 わずか12歳で原爆に命を奪われた広島の少女の物語を世界へ届けてきた。佐々木禎子さんを描いた絵本「おりづるの旅」を33言語に訳し、74カ国の学校や図書館へ4320冊を寄贈。「子どもが読めば親も読む」と信じて続け、公益財団法人ヒロシマ・ピース・センター(広島市佐伯区)の谷本清平和賞を受けた。

 きっかけは約20年前。平和記念公園(中区)の原爆の子の像に案内したアフガニスタンの映像作家に絵本を紹介すると、泣き出した。禎子さんの悲劇と、後に世界中の子どもたちの力で折り鶴が平和の象徴になった話を現地でも読み聞かせたい―。出版社に掛け合い、買い上げた絵本にダリー語訳を貼り付けた最初の「翻訳本」25冊を届けた。

 じきに、身を寄せ合って絵本をのぞき込む子どもたちの写真が送られてきた。「折り鶴が子どもたちの希望になる」と確信。通訳者や学生の協力で絵本を各言語に翻訳し、寄贈を続けた。パキスタンに「サダコ」を冠した小学校が建ち、フィリピンでは絵本の世界を描く大会が開かれた。「私たちの活動を超え、新たな物語が生まれている」

 両親は被爆者。ただ、入市被爆した祖父が脳出血で急死した20歳の頃、初めて広島を意識したという。35歳で前身の「アジアの友と手をつなぐ広島市民の会」を設立。留学生支援から平和教育や核兵器廃絶へ活動の幅を広げた。

 家族と安佐南区で暮らし、中区の事務所に通う。「やってみんちゃい」と笑顔で学生ボランティアの背中を押し、ゆで卵が丸々1個入った「ANTめし」のカレーを振る舞う。(宮野史康)

(2022年11月16日朝刊掲載)

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