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社説・コラム

社説 米中首脳会談 衝突回避へ協議重ねよ

 米国のバイデン大統領と中国の習近平国家主席がおととい、20カ国・地域首脳会議(G20サミット)開催地のインドネシアで会談した。両国首脳の対面での会談は3年5カ月ぶり。バイデン氏が昨年1月に大統領に就任してからは初めてとなる。

 両国間には外交、経済、人権などの課題が山積している。とりわけ台湾を巡って、ペロシ米下院議長が訪問した8月以降、緊張が極度に高まっている。互いの考えは大きく食い違っており、隔たりは埋まらなかった。

 とはいえ、意思疎通の強化で一致したことは評価できる。対話を重ねて、衝突回避に全力を尽くさなければならない。

 会談は、両首脳にとって国内で追い風が吹いている絶好のタイミングで実現できた。

 バイデン氏の与党民主党は、苦戦が予想されていた先週の中間選挙で大敗は免れ、上院は多数派を維持した。懸念されていた求心力低下は避けられ、外交面での影響力を保った。

 習氏は先月の中国共産党大会で異例の3期目入りを決め、「1強」体制を築いた。

 2人は、副大統領や副主席だった11年前から会談を重ねてきた旧知の仲である。ただ、国内の政治状況に縛られず話ができたからといって、難題に解決の糸口が見えるわけではない。

 台湾問題では、強大な軍事力を持つ両国とも譲らず平行線だった。米国は、中国と台湾を不可分の領土とする中国の原則に留意してきた「一つの中国」政策は維持しつつ、台湾海峡の平和と安定を損なう中国の威圧的で攻撃的な行為には反対した。

 一方、習氏は「武力行使の放棄は約束しない」と共産党大会で強硬姿勢を示していた。会談でも、台湾問題は中国の核心的利益だと主張。「越えてはならない最重要のレッドライン」だと米国を強くけん制した。

 実際、ペロシ氏の台湾訪問への反発から中国は、台湾周辺で大規模な軍事演習を数日間展開する強硬策に出た。そもそも武力による台湾統一をちらつかせる発想自体が前時代的だ。軍事圧力を強めれば、偶発的な衝突のリスクも高めかねない。中国には自制を求めたい。

 首脳会談では、意見がそろう場面もあった。ロシアを念頭にウクライナでの核兵器の使用や核使用の威嚇に対して反対を表明した。当然だろう。ロシア寄りの姿勢が目立つ中国だが、核兵器については一線を画した。ロシアの問題に限らず、一致点をさらに広げていきたい。

 米中が、国際社会で果たすべき役割は重い。両国の国内総生産(GDP)は、世界全体の4割を超す。温室効果ガスの排出量は1、2位を占め、温暖化防止の鍵を握っている。世界の平和や安定を守り、経済の底上げが求められていることを忘れてもらっては困る。そのためにも、対話の継続が必要だ。

 もちろん中国には言うべきことは言わなければならない。習氏「1強」体制となった経済・軍事大国で、方針を過てば世界に与える影響は大きいからだ。

 新疆ウイグル自治区での人権抑圧や、香港での「自由」封殺をはじめ、看過できない問題も多い。時間はかかろうとも、国際ルールに沿って大国としてふさわしい振る舞いをするよう、対話を通して、粘り強く求めていかなければならない。

(2022年11月16日朝刊掲載)

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