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社説・コラム

社説 W杯カタール大会 平和考えるきっかけに

 4年に1度のサッカー・ワールドカップ(W杯)が20日、カタールで開幕する。32カ国・地域の代表による約1カ月の熱戦に世界中が沸き立つ。

 紛争が絶えない中東、イスラム圏では初めての開催で、サッカー界の多様性を印象付ける。異文化理解につなげたい。

 今大会は、連覇を狙うフランスや、国際サッカー連盟(FIFA)ランキング1位のブラジルを軸に、見応えのある試合が続きそうだ。メッシ(アルゼンチン)やネイマール(ブラジル)らスター選手のプレーからも目が離せない。超一流の個人技や組織的なプレー、スピード、戦術をじっくり見ることができる貴重な機会である。

 J1サンフレッチェ広島で選手、監督として活躍した森保一監督が率いる日本代表は、23日に初戦を迎える。初のベスト8を目標に掲げる。1次リーグでは強豪国のドイツ、スペインと同じ「死の組」に入り、厳しい戦いになるのは必至だ。

 カタールの首都ドーハは、日本代表にとって因縁の地だ。1993年のW杯アジア最終予選のイラク戦。後半ロスタイムに失点し、初の本戦出場を紙一重で逃した。「ドーハの悲劇」として語り継がれる。当時、選手としてピッチに立っていた森保監督には苦い記憶だろう。

 4月に現地で臨んだ組み合わせ抽選で強敵との対戦が決まると「『ドーハの歓喜』に変えたい」と決意をにじませた。日本代表は、組織的な守りから何とか勝機を見いだしたい。選手たちの奮起に期待がかかる。

 長崎で育った森保監督は二つの被爆地で人生の多くを過ごし、サッカーができる平和を何より尊ぶ。その思いの発信にも意欲を示す。

 過去にないほど緊張に包まれた大会である。2月にロシアがウクライナに侵攻。大規模な爆撃が今も続き、先が見えないからだ。エネルギー価格の高騰やインフレを通じて各国の市民生活に深いダメージを与える。

 FIFAのインファンティノ会長は、大会期間中の停戦を呼びかけた。五輪での取り組みにならっての要請だろう。インドネシアで開かれた20カ国・地域首脳会議(G20サミット)の昼食会に参加し、「紛争を止める努力」を促した。現実の停戦は難しいが、共感した人は少なくあるまい。

 ロシアは4年前の前回大会の開催国。ロシア代表はベスト8入りを果たし、国民は歓喜に沸いた。今大会は、軍事侵攻の直後にFIFAが予選への出場禁止を決めた。欧州各国の非難の声を受けての措置で紛争の影響がスポーツに及ぶのは残念だ。

 一方のウクライナは、本戦出場を懸けたプレーオフで惜しくも敗れたが、欧州予選では前回王者のフランスと引き分けるなど大健闘した。母国を守るため戦闘に加わった若きプロ選手が亡くなるなどサッカー界で悲劇も相次ぐ中、不屈の姿勢をたたえる国民も多かった。

 W杯の世界のテレビ観戦者数は五輪を大きくしのぐといわれる。インファンティノ会長は世界最大のスポーツの祭典を、紛争を止める「唯一無二のプラットフォーム」と強調した。心の底から祭典を楽しむ空気にはほど遠いのかもしれないが、躍動する選手の姿を目に焼き付け、平和の意味を考えたい。

(2022年11月18日朝刊掲載)

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