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社説・コラム

『記者縦横』 鐘は交流と平和の象徴

■三次支局 千葉教生

 戦時中に三次市甲奴町の正願寺から供出され、英国を経て今はカーターセンター(米ジョージア州アトランタ市)にある鐘をつるす鐘楼が、この秋完成した。建築へ奔走した町民や現地との長年の交流を取材し、「もし寺に鐘が戻っていたなら…」とふと考えた。

 鐘がジミー・カーター元大統領(98)に寄贈されたのは1987年。同センターに保管されていると分かった際、住民の間には返還を望む声もあったらしい。

 しかし、「日米友好の証しになれば」と先方に展示を求めたことで縁が生まれ、相互訪問につながる。正願寺の山門脇には、90年にカーター氏が訪れた際の写真が並ぶ。町内には他にもカーター通り、ジミー・カーターシビックセンター、名産となったカーターピーナッツなど交流の証しは数多い。鐘が、かの地に残ったからとも言える。

 鐘楼ができた経緯も興味深い。実はかつて、建築の打診に対し、宗教や鐘の役割への意見の違いから断られたことがあったという。

 それでも住民は十数年前から「鐘を鳴らせる状態にしたい」と、カーター氏に手紙を送り、訪米した中学生たちを通じて依頼するなどしてきた。現地が前向きになった昨年、実行委員会をつくり、資材調達や寄付に力を注いだ。今夏は仕上げに大工職人を派遣した。

 世界で戦争やさまざまな対立がやまぬ今、再び鳴り響いた鐘。交流と平和の象徴として受け継がれるはずだ。「町民の願いがかなった」。実行委メンバーの言葉がその裏打ちである。

(2022年11月18日朝刊掲載)

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