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連載・特集

プロ化50年 広響ものがたり 第4部 未来につなぐ <下> サウンド進化 さらなる高みへ 音響設計家 豊田泰久さん(69)=福山市出身

定演増やし拠点ホールを

  ≪世界的な音楽家から信頼が厚い音響設計の第一人者。2年前、米ロサンゼルスから東京に仕事の拠点を移した。約30年ぶりに聴いた広響サウンドを「隔世の感」と評する≫

 広響を初めて聴いたのは1994年、音響設計を手がけた福山市のリーデンローズの開館記念コンサートだった。正直、東京のオーケストラとは「差があるな」と感じた。

 久しぶりに広響を聴いたときは驚いた。今年5月に広島市であった定期演奏会で、音楽総監督の下野竜也さんが指揮したブルックナーの交響曲第7番。すばらしい演奏だった。

 その前月、レナード・スラットキンさん(米国の人気指揮者)が客演したマーラーの交響曲第6番もすごかった。東京のオケに負けていないどころか…と、感心した。知人であるマエストロの楽屋を訪問したら、「今回は広響のためだけに来日した」と。昔ならあり得ない。いろんな意味で広響のレベルは上がった。

 ≪昨年6月、ふくやま芸術文化財団の理事長に就任。広響とも連携し、クラシックコンサートの回数を増やす方針だ≫

 リーデンローズは音楽専用ではなく多目的ホールだが、設計段階で市からは「クラシックの音響を重視してほしい」と依頼を受けた。幸いにも多くの演奏家や観客から評価をいただいている。だが、広響主催の福山定演は年に1回。良い演奏に感動して「また聴きたい」と思っても、1年待たなければならない。

 2024年度から、広響などのオーケストラの演奏会を年に10回程度まで増やしたい。市内の中学生も招き、一般向けと同じ内容を聴いてもらう。難しい曲もあるかもしれないが、子ども向けのプログラムではない本格的な演奏を体験してほしい。

 ≪オーケストラの活動の根幹である定期演奏会。広響は現在、本拠地・広島市で年10回開く。日本の地方オケはもっと定演を増やすべきだと指摘する≫

 ロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団の定演の回数は大体、月に15回。欧米のオケは財政基盤も聴衆の厚みも違うので同じようにとはいかないが、日本の、特に地方のオケは定演の数が少ない。これでは、健全な財政運営と演奏の成長は望めない。

 現在、広響は指揮者とソリストを招いてリハーサルを3日間やって、広島市のホールで本番を1回して終わり。もったいない。福山に新幹線で来てもう1回、演奏してもらいたい。この「福山方式」が広まれば、全国の地方オケの活性化にもつながると期待する。

 広響の団員も訪れる回数が増えれば、福山に愛着が湧くと思う。文化大使になって、福山のよいところをPRしてほしい。

 ≪かつて広響に寄せたエッセーで「名オーケストラは各々(おのおの)優れたコンサートホールによって育てられてきた」と述べ、音楽専用ホールの必要性を説いた≫

 世界的なオケは自分たちのホーム・ホールがあって、そこでリハーサルも本番も演奏する。それぞれのホールにそれぞれの響きがあり、それはオケの演奏に反映される。「ウィーン・フィルの響き」「ベルリン・フィルの響き」が生まれる。

 広響は残念ながら拠点となる音楽専用ホールを持っていない。今、広響はすばらしいオケに成長している。新しいホールができて、それが音楽専用でリハーサルもコンサートもできるようになれば、広響はもう一段階レベルが上がるはずだ。

 野球やサッカーに比べて、クラシックコンサートに足を運ぶ人は少ないかもしれない。だが、優れた文化施設は市民の誇りになる。広島市にはすばらしいオーケストラがあるのだから。(聞き手は西村文)

とよた・やすひさ
 1952年、福山市生まれ。広島大付属福山高を経て九州芸術工科大(現九州大)卒。77年、永田穂建築音響設計事務所(現永田音響設計)に入社。サントリーホール(東京)、ウォルト・ディズニー・コンサートホール(米ロサンゼルス)など、世界各国で約100カ所の音響設計を手がけた。2001年にロサンゼルス事務所、08年にパリ事務所を設立。東京都在住。

(2022年11月18日朝刊掲載)

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