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連載・特集

2023広島サミット 受け入れを前に <2> 暮らしへの影響

厳戒警備 市民やきもき

欠かせぬ協力 周知に力

 営業中のショッピングモールが物々しい雰囲気に包まれた。広島県警や消防が17日、府中町で実施したテロ対処訓練。毒物が使われた想定で、従業員も一緒になって負傷者救助や毒物処理の手順を確かめた。県警の狙いには「テロへの危機意識の高揚」もある。来年5月に広島市である先進7カ国首脳会議(G7サミット)への備えの一環、という。

 「訓練は継続的にやる」。7月に発足した県警サミット対策課の平原敏浩次席は意気込む。市民に見えるのはごく一部。要人警護や治安警備の訓練をすでにしている。首脳たちが宿泊しそうなホテルを含め、サミット関連施設の周辺調査も進める。

会場も市街地も

 県警への重圧は大きい。過去に海外であったサミットでは、テロやデモ隊との衝突で死傷者が出ている。今回は、街中から離れた場所を会場にしてきた近年のサミットと違い、120万人都市での開催。会場周辺だけでなく、市街地の警備も必要となる。そして7月、奈良市の街頭で安倍晋三元首相が銃撃され、死亡する事件も発生した。

 県警幹部たちは口々に「国家の威信に関わる。失敗は許されない」と緊張感を漂わせる。警察庁は全国から段階的に広島県へ人員を集める見込みで、警察官2万3千人で臨んだ2016年の伊勢志摩サミット(三重県)以上の態勢を組む可能性がある。

 開幕まで半年となる中、厳戒警備に伴う市民生活への影響も徐々に見え始めた。広島市内各地の自治会や企業へ、県警から待機拠点などとして利用可能な施設の提供依頼が相次いでいるという。3月半ばからの使用を希望されたケースも複数ある。

誇り持つ機会に

 南区元宇品町は、町内に立つグランドプリンスホテル広島が主会場になれば、最も影響を受ける。三方を海に囲まれた島に約740世帯、約1500人が暮らし、伊勢志摩サミットに先立つ外相会合でも会場となった。当時は住民にIDカードや車両証明書が配られ、開催の数日前から島を出入りする際に警察官に確認された。周辺の海域では、船の航行自粛を求められた。

 「いつから規制されるのか」「警備の邪魔なら街路樹も切り倒すと聞いた」「救急車に遅れが出やしないか」…。外相会合を上回る規制を見越し、住民たちの不安は尽きない。伊勢志摩サミット時は、主会場の賢島があった志摩市で2カ月前に検問がスタート。会期の前後1週間は賢島行きの鉄道が2駅前から運休し、周辺の子どもたちは外務省が手配したシャトルバスで通学した。

 それでも元宇品町内会の門隆興会長は「世界の行方を決める会議。住民が地元の魅力を見直し、誇りを持つ機会になる」とサミット開催を前向きに受け止める。今月6日、島内清掃を呼びかけ、100人以上の住民が参加した。「大型ごみも回収できた。警備の役に立ち、歓迎の雰囲気づくりにもつながればいい」

 大型イベントの中止、延期や大規模な交通規制も予想される。県警は「県民の理解、協力は不可欠」とし、規制内容が固まり次第、県内の官民でつくる広島サミット県民会議と共に周知を図る。(田中美千子、浜村満大)

(2022年11月20日朝刊掲載)

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