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社説・コラム

社説 日中首脳会談 対話チャンネル増やせ

 岸田文雄首相はおととい、中国の習近平国家主席と、アジア太平洋経済協力会議(APEC)会場のタイで会談した。対面での首脳会談は約3年ぶり。新型コロナウイルス禍の影響もあったが、冷え込んだ日中関係も影を落としている。

 日中は9月に国交正常化50年の節目を迎えたが、祝賀ムードは乏しかった。台湾を巡って米国と中国との対立も深刻化している。そんな中での首脳会談は実質30分程度と短かったものの、対面で意思疎通できたこと自体、評価できる。

 東アジア地域の平和と安定を守る上で重い責任を持つ日中両国である。関係改善のきっかけにしなければならない。

 先月の共産党大会で「1強」体制を築いた習氏にとっては、日本との関係を安定させておきたいのだろう。米国との対立は長期化しそうだから、日米の連携にくさびを打ち込む思惑があるのかもしれない。実際、岸田氏との会談では、建設的で安定的な日中関係の構築に向け協力することで合意した。

 看過できないのは、台湾や沖縄県の尖閣諸島をはじめ、中国が東アジアで軍事的緊張を高めていることだ。尖閣諸島周辺では、海警局の船が領海侵入を繰り返す。8月のペロシ米下院議長による台湾訪問に反発し、日本の排他的経済水域(EEZ)内を含めた周辺海域に弾道ミサイルを撃った。中国の友好国である北朝鮮は、きのうの大陸間弾道ミサイル(ICBM)級を含めてミサイル発射を繰り返し、7度目の核実験を準備するような動きまで見せている。

 こうした現状に、岸田氏は深刻な懸念を示した。言うべきことを言うのは当然だろう。しかし習氏は「内政干渉は認めない」との立場を崩さなかった。

 軍事力増強にひた走る中国に自制を求めるのは、もっともなことである。しかし日本も、防衛力増強に踏み出すことが地域の安定につながるのか、熟考すべきだ。果てしない軍拡競争に巻き込まれることになりかねない。何が国民のためになるのか、見極める必要がある。

 会談では、不測の事態への備えで前進した。偶発的な衝突を防ぐため両国の防衛当局が互いに連絡を取る「ホットライン」の早期運用開始や、外交・防衛当局の高官による「安保対話」などだ。万全を期したい。

 幾つかの分野では協力を約束した。環境と省エネを含めたグリーン経済や、医療・介護・ヘルスケアなどの分野である。地球温暖化対策は、日中両国だけではなく、国際社会にとっても喫緊の課題だ。少子高齢化に直面する両国にとって医療・介護面で互いの経験やノウハウを提供し合う意味は大きい。

 日中は隣国として、歴史的・文化的に長く深いつながりがある。経済面での結び付きも強い。「中国なしで世界は立ちゆかず、中国もまた、世界なしではやっていけない」との声が財界から聞かれるほどだ。

 日本にとって、中国は最大の貿易相手国で、日系企業の海外拠点数でも1位を占める。切っても切れない経済関係にあることを改めて認識しておきたい。

 日中両国には、意見の違いや懸案も多い。だからこそ、対話のチャンネルを増やして、緊密な意思疎通を絶やさないようにしなければならない。

(2022年11月19日朝刊掲載)

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