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連載・特集

2023広島サミット 受け入れを前に <1> インフラ

 広島市で開かれる先進7カ国首脳会議(G7サミット)の開幕まで、19日であと半年となった。来年5月19~21日、被爆地は世界の政治リーダーをいちどきに迎える。国家行事の成功を支え、広島の魅力と平和の発信につなげようと、広島県や市が受け入れ準備に奔走している。現状と課題を探る。

首脳行程 「想定」で準備

巨費投入 道にトイレに

 「10年分の仕事を凝縮して一気に進める」。広島市の新部署、G7広島サミット道路環境整備担当(8人)の森原隆浩担当部長は息巻く。9月の補正予算で経費16億8800万円を確保した。平和記念公園がある中区と、主会場候補のグランドプリンスホテル広島がある南区で道路の舗装の補修や照明灯の建て替えを予定。今月から徐々に工事を始め、年明けの1~3月に本格化する。

 サミットの受け入れへ、広島県と市が計上した関連予算は9月までで約100億円。うちインフラや公共施設関連が約77億円を占める。「要人を乗せた車が問題なく走行できるように」「広島の印象を良くしたい」と、補修や更新の時期を前倒しするなどして取り組む。全体予算はさらに膨らむ見通しだ。

 2016年の伊勢志摩サミットで、開催地の三重県の事業費は約94億円だった。うち公共工事と国際メディアセンター整備に約64億円を投じ、国からの財政援助が約40億円あった。広島県の湯崎英彦知事と広島市の松井一実市長は今月、相次いで政府へ予算確保を直訴した。

 ただ、首脳たちの行程はまだ明らかになっていない。「全て『想定』で準備するしかない」と県幹部。要人が通ったり見たりするかもしれない場所を軒並み手入れする構えだ。

滑走路や標識も

 異例の公共事業は発注方法にも見て取れる。市は主会場や宿泊ホテル、平和記念公園を結ぶ移動経路を想定して街路樹1790本の剪定(せんてい)を計画。入札の公告時に具体的な場所を示さず、中区と南区に大ざっぱな円を描くにとどめた。「警備に配慮した対応。こんなの初めてだ」と公園整備課は明かす。

 整備は道路にとどまらない。県は16年に米国のオバマ大統領(当時)が降り立った広島ヘリポート(西区)の滑走路や標識を補修する。首脳たちの訪問先として政府が検討する宮島(廿日市市)では、名所「もみじ橋」を塗り替え、桟橋のさびを落とす。

 国際メディアセンターに見込む県立総合体育館(中区)では、和式トイレ43基と洋式トイレ141基を外国人も使いやすいようにと温水洗浄機能付きの洋式トイレに改修。照明機器のLED化も進める。

 広島市は平和記念公園訪問に備える。進入防止の車止め52本を交換し、1・5倍太くする。敷石は見栄えのため、ひび割れた延べ220平方メートルを取り換える。広島国際会議場の和式トイレ35基も洋式化する。

訪問者増当てに

 県の改修リストには訪問者の増加を当て込み、縮景園(中区)や中央森林公園(三原市)、もみのき森林公園(廿日市市)なども並ぶ。「これまで踏み切れなかったが、サミットを機にできる」という声がある。

 新型コロナウイルス禍や物価高で県民が生活苦にあえぐ中、サミット受け入れに巨費を投じることになる。広島修道大(安佐南区)の伊藤敏安教授(公共政策)は「一過性ではなく、サミット後の県民の暮らしやすさや観光客の過ごしやすさにつながるよう長期的なまちづくりの観点が求められる」と指摘する。(久保友美恵、余村泰樹、川上裕)

(2022年11月19日朝刊掲載)

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