社説 COP27閉幕 基金設立合意は前進だ
22年11月22日
エジプトで開かれていた国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)は、気候変動被害への支援に向けた基金創設にこぎ着けて閉幕した。長年求めてきた発展途上国にとっては大きな成果といえる。
どの国がいくら拠出するかなど具体的な運営細則は今後、各地域の代表者で委員会を設けて協議し、来年のCOP28での決定を目指す。何とか一致点を見いだし、国際社会が結束して地球温暖化対策の強化に取り組む土台としなければならない。
今回の会議では、議長国エジプトが気候変動により途上国に生じた「損失と被害」を主要議題に掲げた。海面上昇で国土が浸食される小島しょ国が30年ほど前に提起した課題で支援基金の創設も初めて俎上(そじょう)に載せた。
気候変動による被害は世界で相次いでいる。パキスタンではこの夏以降の洪水で1700人以上が亡くなり、国土の3分の1が浸水した。島しょ国モルディブなどは海面上昇で国土消失の危機に直面する。こうした国々が救済対策を優先するよう求めるのはうなずける。
とはいえ課題は山積する。被害額は2050年時点で年1兆ドル(約140兆円)との試算もある。膨大な負担を懸念する先進国は当初反対の立場を取ったが、決裂は避けなければならなかった。支援対象を「気候変動の影響に特に脆弱(ぜいじゃく)な途上国」に限定することで歩み寄った。
先進国にしてみれば、途上国に交じって基金創設を主張しながら、資金拠出に否定的な中国に金を出させたい思惑があるのだろう。資金拠出を先進国に限定せず、中国やインドなど温室効果ガスの排出量の多い新興国も視野に入れる。来年に向けた交渉で課題解決を図るべきだ。
ただ、会議全体からすれば決して成功とはいえまい。何よりも重要な温室効果ガスの排出削減対策に関しては前進がなく、成果はゼロに等しい。
会議で採択した文書では、20年に始まった気候変動対策の国際ルール「パリ協定」で掲げた「産業革命以前からの気温上昇を1・5度に抑える」目標の達成に向けてさらに努力するとの決意を表明するにとどまった。
日本を含めて自国の削減目標の強化を打ち出した主要国はなく、化石燃料の段階的廃止に強い方針を打ち出せなかった。パリ協定のルールが固まり、今年は「実施のCOP」といわれていただけに、不満が残る。
COP事務局が先月示した報告書では、各国目標を合わせた30年時点の排出量は10年比で10%以上増えた。パリ協定の目標達成が不可能どころか、今世紀末までの気温上昇が2・5度にもなるという驚くべき見通しも明らかにされた。このまま放置することは許されない。
新興国の対策強化も重要であるが、まずは先進国が気候変動を引き起こしてきた責任を自覚し、化石燃料依存から一刻も早く脱却しなければならない。
気になるのは、日本の存在感の乏しさだ。序盤の首脳級会合には英仏独をはじめ100カ国以上が参加し、バイデン米大統領も現地を訪れたが、岸田文雄首相は国会対応に追われ、見送った。来年5月には広島市で先進7カ国首脳会議(G7サミット)が開かれる。地球温暖化対策へのリーダーシップを取る気概を今こそ示してもらいたい。
(2022年11月22日朝刊掲載)
どの国がいくら拠出するかなど具体的な運営細則は今後、各地域の代表者で委員会を設けて協議し、来年のCOP28での決定を目指す。何とか一致点を見いだし、国際社会が結束して地球温暖化対策の強化に取り組む土台としなければならない。
今回の会議では、議長国エジプトが気候変動により途上国に生じた「損失と被害」を主要議題に掲げた。海面上昇で国土が浸食される小島しょ国が30年ほど前に提起した課題で支援基金の創設も初めて俎上(そじょう)に載せた。
気候変動による被害は世界で相次いでいる。パキスタンではこの夏以降の洪水で1700人以上が亡くなり、国土の3分の1が浸水した。島しょ国モルディブなどは海面上昇で国土消失の危機に直面する。こうした国々が救済対策を優先するよう求めるのはうなずける。
とはいえ課題は山積する。被害額は2050年時点で年1兆ドル(約140兆円)との試算もある。膨大な負担を懸念する先進国は当初反対の立場を取ったが、決裂は避けなければならなかった。支援対象を「気候変動の影響に特に脆弱(ぜいじゃく)な途上国」に限定することで歩み寄った。
先進国にしてみれば、途上国に交じって基金創設を主張しながら、資金拠出に否定的な中国に金を出させたい思惑があるのだろう。資金拠出を先進国に限定せず、中国やインドなど温室効果ガスの排出量の多い新興国も視野に入れる。来年に向けた交渉で課題解決を図るべきだ。
ただ、会議全体からすれば決して成功とはいえまい。何よりも重要な温室効果ガスの排出削減対策に関しては前進がなく、成果はゼロに等しい。
会議で採択した文書では、20年に始まった気候変動対策の国際ルール「パリ協定」で掲げた「産業革命以前からの気温上昇を1・5度に抑える」目標の達成に向けてさらに努力するとの決意を表明するにとどまった。
日本を含めて自国の削減目標の強化を打ち出した主要国はなく、化石燃料の段階的廃止に強い方針を打ち出せなかった。パリ協定のルールが固まり、今年は「実施のCOP」といわれていただけに、不満が残る。
COP事務局が先月示した報告書では、各国目標を合わせた30年時点の排出量は10年比で10%以上増えた。パリ協定の目標達成が不可能どころか、今世紀末までの気温上昇が2・5度にもなるという驚くべき見通しも明らかにされた。このまま放置することは許されない。
新興国の対策強化も重要であるが、まずは先進国が気候変動を引き起こしてきた責任を自覚し、化石燃料依存から一刻も早く脱却しなければならない。
気になるのは、日本の存在感の乏しさだ。序盤の首脳級会合には英仏独をはじめ100カ国以上が参加し、バイデン米大統領も現地を訪れたが、岸田文雄首相は国会対応に追われ、見送った。来年5月には広島市で先進7カ国首脳会議(G7サミット)が開かれる。地球温暖化対策へのリーダーシップを取る気概を今こそ示してもらいたい。
(2022年11月22日朝刊掲載)