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社説・コラム

[歩く 聞く 考える] 2023広島サミット G7サミットと市民運動 被爆地から反核平和のうねりを 中央大文学部教授 野宮大志郎さん

 気候変動などの国際会議で、市民運動が国家へのカウンターパワー(対抗勢力)として存在感を増している。とりわけ先進7カ国首脳会議(G7サミット)は、市民側の主張が先進国の論点を左右することもある場だという。来年5月の広島サミット開催まで半年を切った。多数の市民運動の現場を歩いてきた中央大文学部教授の野宮大志郎さん(67)に、広島サミットの展望を聞いた。(報道センター社会担当・山本洋子、写真も)

  -なぜ世界の市民運動がサミットに集うのでしょうか。
 G7は国際法上の位置づけがないのに、大きな影響力で世界を動かしています。国際的な覇権を巡る議論を毎年交わす「政治の季節」であり、開催地が歓迎一色に染まる「祭り」の顔もある。呼応するように1980年ごろから市民が声を上げ始め、時に100万人超が集まる場になりました。新自由主義経済への批判、貧困や環境問題など、イシュー(論点)は多様化し、先進国に対応を迫っています。

  -何に興味を引かれますか。
 多様な活動が物理的、時間的に集う「結節点」として世界の社会運動の今を捉えられます。重債務国の救済を求める市民の主張が議題に取り上げられるような影響力の強さが特徴です。無数の現場を参加者とともに歩き、向き合う中で、私たちと同じような日常を過ごす「普通の人」が声を上げる動機や問題意識を伝えたい思いもあります。

  -デモや過激な行動が注目されがちな面は否めません。
 参加国との対話や提言を通じてオブザーバー的な扱いを受ける活動もあれば、破壊的な行動を辞さずに監視や弾圧を受ける活動もあります。警察官がデモ参加者に催涙ガスや放水銃を放つ映像は日本では「非日常」。恐怖を抱く人は多いでしょう。

 多様な主体の活動が影響し合い、年々の運動の様相を決めます。広島サミットでどんな動きが表面化するかは未知数です。

  -岸田文雄首相は「(サミット開催が)広島ほどふさわしい場所はない」とし、核軍縮に焦点を当てる姿勢に見えます。
 市民の反応も「被爆の実相を知ってほしい」「被爆者の声を聴いて」の声が目立ちますね。核被害の真実を知れば、確実に核兵器に対するあなたたちの考え方は変わる-という強いロジックを感じます。地元が明確な主張を持つ点で洞爺湖や伊勢志摩は「無色」に近く、基地問題などを地域色強く展開した2000年の九州・沖縄サミットと重なります。

 沖縄は嘉手納基地を囲む「人間の鎖」が注目された半面、直近の開催地で盛り上がったグローバルな運動はそこまで広がらなかった。特に基地問題で、県外の活動を「よそ者」として距離を置く動きも見られました。

  -核軍縮に向けて、広島で前進を得るには何が必要ですか。
 ロシアが核兵器利用を示唆して緊張が広がる中、核軍縮に向けた明確で具体的な言動を得ることは厳しいかもしれない。一方で広島の運動が世界の運動に影響して反核のうねりとなり、核保有国の判断に影響を与える流れには可能性を感じます。

  -なぜですか。
 グローバルな市民は、国や国家共同体のロジックが自らと大きく乖離(かいり)した時に声を上げます。示唆に富むのは、70~80年代の新型核兵器の開発競争と核再配備に対して起こった欧州での反核運動。核戦争に勝者はなく、被害を受けるのは国家でなく市民であるという強烈な当事者意識で500万人を超える運動となりました。

  -「欧州を広島のような核の戦場にするな」(ノー・ユーロシマ)との訴えは、中距離核戦力(INF)廃棄条約の締結を後押ししたとされます。
 再び核使用が現実味を帯びる中、広島サミットは一つの試金石だと考えます。「平和」の名の下に多様な運動を包摂して大きく連帯する可能性も、一部の活動に対して「祈りの場」の聖地性から拒絶する可能性もあるでしょう。再び世界に反核のうねりを起こす始まりの地になるか。注目しています。

■取材を終えて

 広島が平和のシンボル性を高めれば、世界の市民運動への求心力を増して力を与え合う関係になれる-。野宮さんの見立てだ。核保有国を含むG7首脳への直接的な訴えに加え、市民社会に共感や連帯を広げられるような広島サミットの在り方、受け入れ方とは何か。自問自答している。

のみや・だいしろう
 兵庫県豊岡市生まれ。米国ノースカロライナ大チャペルヒル校社会学研究科で博士号取得。上智大教授などを経て、15年4月から現職。専門は市民社会論で、国境を超えた反戦平和運動や人権、環境運動などの市民活動を研究している。著書に「社会運動と文化」、編著書に「サミット・プロテスト-グローバル化時代の社会運動」。東京都在住。

(2022年11月23日朝刊掲載)

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