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連載・特集

2023広島サミット 受け入れを前に <4> 平和発信

首脳と対話 被爆者渇望

問われる県・市の本気度

 修学旅行シーズン真っただ中。広島市中区の平和記念公園を連日、小中高生が行き交う。「原爆被害を理解するには来てもらうのが一番」。22日、ボランティアで山梨県の高校生を案内した大中伸一さん(72)=中区=は歓迎する。「各国首脳もサミットを無駄にせず、この地で核の悲惨さを胸に刻んでほしい」

献花など直談判

 来年5月に初めて広島市で開かれる先進7カ国首脳会議(G7サミット)。核兵器を持つ米英仏3カ国の首脳が被爆地に集うのも史上初だ。官民組織の広島サミット県民会議は平和発信の好機と捉える。会長の湯崎英彦知事たちが先月、各国首脳の原爆資料館見学▽被爆者との対話▽原爆慰霊碑への献花―などを岸田文雄首相に直談判した。

 「思いは受け止めていただいた。ぜひ実現してほしい」。県民会議平和・若者参画推進課の森岡庸介課長は力を込めつつ、続けた。「ボールは投げた。あとは状況を見守るほかない」

 広島市は2016年4月、伊勢志摩サミットに先立つ外相会合を誘致した際、外相たちと被爆者の対面を国に求めたが、実現しなかった。市は次善の策として各国から同行してくるメディア向けの被爆証言会を広島国際会議場で開いたが、協力した山本定男さん(91)=東区=は「残念な思いしかない」と振り返る。

 被爆時は広島二中(現観音高)2年生。防火帯を造る作業に動員された1年生約320人は、市街地で全滅した。その無念を伝えようとしたが、海外メディアの参加はゼロ。日本人記者数人が訪れただけで、会場は空席が目立ったという。

資料館滞在10分

 伊勢志摩サミットが終わった5月27日に、今度はオバマ氏が米国の現職大統領として初めて広島に来た。平和記念公園滞在は52分。うち原爆資料館にいたのは10分。碑前で県被団協理事長の坪井直さん(昨年10月に96歳で死去)たち被爆者を前に17分演説した後、言葉を交わして立ち去った。

 中国新聞の情報公開請求によると、市はオバマ氏の受け入れに際し「資料館見学30分」「被爆者との対話5分」などの案を作成。引き取り手がない原爆死没者約7万体の遺骨が納められた原爆供養塔や、韓国人原爆犠牲者慰霊碑を通る平和記念公園内の散策も盛り込んだが、実現しなかった。

 「仕方ない。米側も自国民の反発は買いたくないのだろう」。ある市幹部は、戦争終結を早めたとして原爆投下を正当化する意見が保守層に根強くある米国内の事情を推し量った。原爆資料館で何を見るか決めるにも逐一、米側が「残虐過ぎる」などと注文を付けた、との報道もある。

 ウクライナに侵攻したロシアが「核の脅し」を繰り返す中、岸田首相が決断した地元広島でのサミット開催。供養塔を管理する広島戦災供養会の会長で胎内被爆者の畑口実さん(76)=廿日市市=は「広島に来るだけで終わってもらっては困る。悲惨な現実を肌で感じて、一刻も早く地球上から核をなくすと誓いを立ててほしい」と訴える。

 歴史的なサミットを通じていかに首脳たちの心を動かし「核兵器のない世界」へ前進させるか。国はもちろん県、市の本気度が問われる。(桑島美帆、田中美千子)

(2022年11月23日朝刊掲載)

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