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社説・コラム

『記者縦横』 子どもと受け継ぐ記憶

■ヒロシマ平和メディアセンター 新山京子

 77年前の「あの日」の記憶を中国新聞ジュニアライターの中高生記者に話してほしい―。そうお願いすると、被爆者の福田末子さん(82)が電話口で迷っていることがこちらに伝わってきた。姉を失った悲しみ。戦後の生活の困窮―。家族にも明かしたことがなかったという。「うまく話せるか分からんよ」と言いながら「平和の大切さは伝えたい」と受けてくれた。

 本紙平和面で月1回、被爆者の証言記事「記憶を受け継ぐ」を掲載している。取材には毎回、「受け継ぐ」側の子どもたちが同席。記事を書くのは「大人記者」だが、ジュニアライターも感想文を出稿する。

 特に人前で体験を語った経験のない被爆者は、緊張した面持ちで取材に臨む。しかし孫世代の真っすぐなまなざしに、徐々に心を開いてくれることが多い。中学生3人を前に、福田さんも最初は落ち着かないようだった。つらい記憶を初対面の相手に話すのだから、無理もない。こちらの質問に答える形で少しずつ振り返ってもらう。気が付けば打ち解けて、2時間があっという間に過ぎていた。

 実は3人も最初は緊張していた。「こんなことも、聞いていいのかな」と時折不安そうな表情を浮かべる。子どもも、記憶の継承のあり方を模索している。

 まだ語られていない原爆被害は多くあるはずだ。新型コロナ禍で対面取材の機会は減っているが、子どもたちと一緒に被爆者の声に耳を傾けて、平和への願いを発信していきたい。

(2022年12月2日朝刊掲載)

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