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社説・コラム

天風録 『「平和の木」の旅路』

 昭和世代には懐かしいシンガー・ソングライター2人の合作した曲は、広島市の被爆エノキにちなむという。青春ソング「道標(しるべ)ない旅」を歌った永井龍雲(りゅううん)さんが詞を書き、広島ゆかりの原田真二さんが作曲を引き受けた▲永井さんの古里福岡県みやこ町で四半世紀前の12月、町内の犀川(さいがわ)小に植えたのが被爆エノキ2世。幼木の贈り主は、広島の被爆者で児童たちと文通を続けていた亡き福田安次(やすじ)さんだった▲福田さんは平和記念公園で〈児童、父母、教職員一同〉と書いた修学旅行の千羽鶴を見つけ、学校ぐるみの取り組みに感銘。みやこ町内の小学校と分かり、手紙のやりとりが始まった。毎月2冊の児童書も贈り、学校からの礼状には地元産の梅やクリが添えられていた▲文通と平和学習の橋渡しを務めていた小学教員が病で伏せると、福田さんから励ましの絵はがきが毎日届いたらしい。その数は千枚を超えたというから、まさに千羽鶴の祈りを思わせる▲高さ8メートルほどに伸びた2世は「平和の木」と呼ばれ、10日に校内で植樹25周年記念集会がある。まだ内緒と聞く例の新曲はフォークソング風で、福田さんとの交流を描いているそうだ。被爆樹木の「旅」は続く。

(2022年12月6日朝刊掲載)

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