×

社説・コラム

『ひと・とき』 アーティスト アリー・ツボタさん 原民喜の世界 創作に反映

 「時空や言語を超えて、原民喜が今、そばにいるように感じている」。被爆作家原民喜(1905~51年)と架空の往復書簡を交わすという想定で、写真・映像と言葉を組み合わせた現代アートの創作に取り組んでいる。

 茨城県と同県守谷市などが主催する芸術文化事業「アーカスプロジェクト」に招かれ、この夏から守谷市に滞在。幾度か広島市を訪れ、民喜が生まれ育った幟町(中区)の実家跡、被爆後に暮らした八幡村(現佐伯区)に足跡を追った。広島市中央図書館では、民喜の遺書や原爆被災証明書、直筆原稿も撮影した。

 広島市安芸区にゆかりがある日系4世。米国マサチューセッツ州を拠点に、戦争や移民などをモチーフにした作品を発表してきた。昨年、米国戦略爆撃調査団が原爆投下直後に撮影した写真を調べる中で偶然、民喜作品と出合い、一気に引き込まれたという。

 「非常に繊細な感性の持ち主。小説や詩を読むと、映像が瞬時に浮かぶ」。創作に使う愛器はアンティーク型の大判カメラだ。撮影には時間をかけ、被写体とじっくり向き合う。「米国の人々は、原爆を投下したことを記憶から消し去っている。民喜の世界を通し、ヒロシマの歴史を世に訴える作品にしたい」と力を込める。(桑島美帆)

(2022年12月6日朝刊掲載)

年別アーカイブ