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連載・特集

国際賢人会議を前に <上> 政府の思惑

「首相らしさ」示せる場

オバマ氏来訪せず 落胆も

 岸田文雄首相が提唱した「国際賢人会議」の初会合が10、11日、被爆地広島市のグランドプリンスホテル広島(南区)で開かれる。核兵器保有国と非保有国の有識者らが核兵器を減らす手だてを議論する。開会を前に、政府の思惑や迎える被爆者の願いを探った。

 「各国リーダーの関与も得ながら核兵器のない世界の実現に全力で取り組む」。1日の参院予算委員会で抱負を問われた首相は力強く言い切った。

「核なき世界」を

 世界の政治指導者の発信力を借りて「核なき世界」を目指す―。かねて首相はこうした構想を温め、2020年10月に出版した著書「核兵器のない世界へ―勇気ある平和国家の志」に記した。外相時代に有識者を集めて創設した「賢人会議」からウイングを広げた背景には「核兵器を減らすには、政治の力が不可欠」との信念があった。

 著書では2人の具体名を挙げる。16年に現職米大統領として初めて広島を訪れたオバマ氏と、冷戦終結に尽くした旧ソ連のゴルバチョフ元大統領だ。ゴルバチョフ氏が死去した今夏以降、国際賢人会議に向けた最大の関心事はオバマ氏の出席の可否に移った。

発信は限定的に

 首相はオバマ政権下で副大統領を務めたバイデン大統領と首脳会談を重ね、緊密な関係を築く。それだけにオバマ氏再訪への期待は高まったが、最終的にビデオメッセージを寄せてもらう形になった。米国との招致交渉の舞台裏について外務省幹部は「全力を尽くした」と多くを語らないが、首相周辺からは「じかに来てくれるのがベストだった」との落胆も漏れる。

 オバマ氏にとどまらず、今会議の特色である政治リーダーの関与は、6人全員が事前録画のビデオメッセージとなった。核保有国、非保有国の双方から集う有識者については、今夏の核拡散防止条約(NPT)再検討会議で議長を務めたアルゼンチンのスラウビネン大使らがそろうものの、首相が期待した政治力による発信は限定的となる。

 こうした実情も踏まえ、外務省軍縮筋は会議の中身で成果を出そうと躍起だ。実務的な議論を進める海外の委員は、米中ロなど核保有国に加え、日本と同じく米国の「核の傘」に頼るドイツなどの非保有国、核兵器禁止条約の賛同国からも招く。核軍縮でスタンスが異なる国々の「橋渡し」を意識したのは確実だ。

 会議を提唱した首相にとっても今回の成否は重い意味を持つ。安倍晋三元首相の国葬を決めてから苦境が続く中、政府・与党内からは「首相らしさをアピールできる貴重な場」(政府高官)との声が強まる。今月11日は自ら広島入りし、ロシアの核威嚇を非難した上で「核なき世界」への決意を改めて訴える構えだ。

 5カ月余り先には議長を務める地元広島市での先進7カ国首脳会議(G7サミット)が控える。米英仏の核保有国首脳が初めて被爆地に集う歴史的会合を前に、果たして核兵器削減の確かな道筋を示せるのか。政権の浮沈を左右する。(樋口浩二、口元惇矢)

(2022年12月9日朝刊掲載)

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