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社説・コラム

社説 バイデン政権の今後 ウクライナ停戦 力注げ

 投票から1カ月。米中間選挙は開票の長期化や再投票で決着に時間を要したが、米CNNによると民主、共和両党の上下院の勢力図がやっと確定した。

 議席数は上院で与党の民主が1議席伸ばして51、共和が49。下院は与野党逆転して共和222、民主213である。両院で多数派が異なる「ねじれ」が生じたが、年明けに任期折り返しを迎えるバイデン大統領は一定に自信を深めているようだ。

 下院の議席差は、事前の与党惨敗の予想よりもはるかに小さい。上院も最後に残ったジョージア州の決選投票で民主現職が接戦を制し、人事案件などを安定的に主導できる態勢が強まった。在任中の中間選挙で上院議席を増やした民主の大統領は60年前のケネディ氏以来という。

 記録的なインフレにロシアの軍事侵攻に苦しむウクライナへの「支援疲れ」。共和の攻勢の中で民主が健闘した理由の一つはやはり人権擁護など、党が長年掲げてきたぶれない姿勢への支持の底堅さではないか。

 逆に、大統領への返り咲きを狙うトランプ氏の威信は失墜した。自分が推した候補が相次いで苦杯をなめたからだ。前回の大統領選の結果を不正だと主張して扇動を繰り返す手法は共和支持層に影響力は残すものの、勢いを失っている。「トランプ離れ」はある意味で米国民の良識を示したとも言えよう。

 むろん下院で少数派となったバイデン政権の今後は波乱含みだ。重要法案が立ち往生し、議会承認を得ず大統領令を乱発する局面に陥るかもしれない。

 一方で大統領の権限が強い外交の分野では、自ら掲げる国際協調の理念に堂々と立ち返り、大国としての役割を十分に果たしてもらいたい。

 何よりウクライナである。ロシアに不法占拠された東部の奪回に向け、ゼレンスキー大統領は攻勢を強めている。さらにロシア国内の軍事施設に無人機攻撃が繰り返され、ウクライナ側の作戦との見方が強い。ロシアの報復激化も予想される中で、プーチン大統領は「核戦争の脅威が高まっている」とまたしても口にしたという。

 これ以上の戦争のエスカレートをどう食い止めるか。武器供与を続けてきた米国はウクライナ側の前のめり姿勢にやや距離を置きつつあるように見える。無人機攻撃に関してもブリンケン国務長官は「米国はロシア国内への攻撃を促していない」と慎重な言い回しにとどめた。

 ロシアの非人道的な行動が非難されるべきだという点は変わらないが、早急な停戦に向けて米国が国際社会と連携し、もっと力を注ぐ段階ではないか。

 もう一つ気がかりなのは核軍縮の行方である。

 例えば「海洋発射型核巡航ミサイル」の扱いだ。中間選挙に先立ち、バイデン政権は開発中止を示していた。トランプ政権時代に導入を打ち出したが、核軍縮の数少ない措置として待ったをかけた形だ。ところが今週になってウクライナ情勢などを踏まえ、議会から開発予算を復活する動きが出てきたという。両院で法案を可決し、大統領が署名すれば計画が動き出すが、ここは思いとどまるべきだ。

 バイデン氏の任期は、残り2年。オバマ大統領の時代から引き継いだ「核兵器なき世界」の理念の骨抜きは許されない。

(2022年12月9日朝刊掲載)

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