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社説・コラム

天風録 『「地球が涙を流した日」との決別』

 師走に入ったというのに広島市内では、修学旅行の一団を結構よく見かける。コロナ禍で旅程が延ばし延ばしになっていたのかもしれない。師弟ともども気ぜわしいことである▲陸の玄関であるJR広島駅の新幹線改札口近くでは今、色鮮やかな一対の狛犬(こまいぬ)の絵が内外の客を出迎えている。守り神をモチーフとする神獣アーティスト小松美羽(みわ)さんが描いた。被爆者との対話や犠牲者の形見で打たれた思いを膨らませたと聞く。題名は「地球が涙を流した日」▲そんな涙と決別する「核兵器のない世界」に向け、きのう広島で国際賢人会議が始まった。国連のグテレス事務総長やオバマ元米大統領がビデオメッセージで賛同を伝えたものの、曇った顔つきは混迷の予感を物語っていた▲初日に拍子抜けだったのは、会議の音頭取りでヒロシマの代弁者たる岸田文雄首相の姿がなかったことだろう。本人も開幕の場に顔を出したかったはず。いまだ政権支持率が振るわず、国会の日程消化に影を落とした▲小松さんの狛犬は、向かって右の口が開き、左は閉じている。物事の始まりの「阿(あ)」と終わりの「吽(うん)」を表す。国際社会といい日本社会といい、阿吽の呼吸が整っていない。

(2022年12月11日朝刊掲載)

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