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連載・特集

国際賢人会議を前に <下> 被爆地の焦り

核なき世へ「今度こそ」

過去の成果には疑問も

 観光客でにぎわう平和記念公園(広島市中区)に11月22日、広島県被団協の箕牧(みまき)智之理事長(80)の訴えが響いた。「威嚇ではない。本当に戦争中に核兵器を使われた」。ウクライナに侵攻したロシアによる核兵器使用への危機感、遠き「核兵器のない世界」への焦り…。被爆地の心情がこもっていた。

7団体が要望書

 核を巡る厳しい国際情勢下で今月10、11日に市内で開かれる日本政府による国際賢人会議。二つの県被団協を含む被爆者7団体は核兵器廃絶へ「今度こそ、具体的な知恵を」と迫る要望書を岸田文雄首相に送った。これまでも政治家や有識者たちが核軍縮、不拡散の方策を広島でたびたび話し合いながら、成果を上げていないとの懐疑的な思いが文面ににじむ。

 国際賢人会議の前身で、岸田首相が外相時代に提唱し、2017年に広島市で初会合を開いた「賢人会議」もその一つ。国内外の有識者が参加し、翌年3月に提言書をまとめた。

 核拡散防止条約(NPT)体制の強化▽安全保障上の核兵器の役割低減の検討▽核兵器保有国は核使用の脅威を基礎とした威圧的行動を控える―。警鐘として先見の明があったのか、逆行するようにロシアが「核の脅し」を繰り返し、対抗する核抑止論が広がり、22年8月のNPT再検討会議は決裂した。

 今回の国際賢人会議も、岸田首相の肝いりだ。日本政府は、核政策の実務者を委員に入れ、オバマ元米大統領たち政治指導者にメッセージを寄せてもらう「関与」を得て開く。座長は前回同様、熊本県立大の白石隆理事長が務める。

「日本が先頭に」

 ただ「首相から本気度が伝わってこない。日本が先頭に立って核兵器廃絶を進めてほしい」と、もう一つの県被団協の佐久間邦彦理事長(78)はいぶかる。被爆国政府は安全保障を米国の「核の傘」に頼り、保有国と、核軍縮の停滞に不満を持つ非保有国の溝を埋める具体的な行動を国際社会に示せていないとみるからだ。68カ国・地域が批准した核兵器禁止条約にも、なお後ろ向きだ。

 それでも被爆地で開くからには、核の惨禍に向き合い、国の立場を超えて議論する姿勢が国際賢人会議に期待されている。委員には米国とロシア双方の出身者もいる。

 委員と非政府組織(NGO)との意見交換に参加する「核政策を知りたい広島若者有権者の会」(カクワカ広島)の田中美穂共同代表(28)は「世界の核被害者やジェンダー、若い世代の視点も生かすように求めたい。広島開催のアピールだけで終わらせないでほしい」。今度こそ、人類を核兵器のない平和な世界へ導く「賢人」の英知の結集が求められている。(小林可奈)

(2022年12月10日朝刊掲載)

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