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社説・コラム

社説 国際賢人会議 核廃絶進める知恵示せ

 核兵器廃絶の道筋について国内外の有識者たちが議論する国際賢人会議がきょう、広島市で開幕する。

 「核兵器のない世界」をライフワークに掲げる地元選出の岸田文雄首相が提唱した。その1回目の会合である。オバマ米元大統領ら政治リーダーはいずれもビデオメッセージによる参加にとどまるという。インパクトこそ薄まったが、米中ロなどの核兵器保有国と非保有国の学者や実務者ら15人が被爆地で意見を交わす意義は大きい。

 来年5月には先進7カ国首脳会議(G7サミット)を控える。2日間の日程で成果を疑問視する声もある。しかし、「賢人」の皆さんには被爆地の訴えを胸に刻み、核廃絶の歩みを進める知恵を示してもらいたい。

 国際賢人会議は、岸田氏が外相時代に創設した核軍縮を進めるための会議を発展させた。「核兵器のない世界」と看板を付け替え、有識者だけでなく政治指導者に関わりを求めたのが特色だが、大物の来訪は実現しなかった。旗振り役の岸田氏も国会日程が入ったため初日の出席がかなわず、閉会あいさつで思いを語るという。

 それでも米中ロの専門家が膝を突き合わせる場は貴重だ。日本と同様に米国の「核の傘」に頼るドイツや、核兵器禁止条約に賛同するニュージーランドからも軍縮やエネルギー政策などの実務家らが集う。今夏の核拡散防止条約(NPT)再検討会議で議長を務めたアルゼンチンの外交官も名を連ねる。踏み込んだ議論を期待したい。

 実のある成果を導き出すのに欠かせないのが、被爆者の生の声だろう。被爆者団体の要望がかない、被爆証言を聴く場が設けられた。8歳の時に広島市西区で被爆した女性が体験を語るという。

 ウクライナに侵攻したロシアのプーチン大統領が核兵器の使用をちらつかせ、欧州などでは核による威嚇で相手の攻撃を未然に防ぐ核抑止論が勢いを増している。77年前の広島で何が起きたのかを当事者からじかに聞くことで、核抑止の考え方がいかに危ういか分かるはずだ。

 核廃絶に向けた活動に取り組む非政府組織(NGO)の若者たちとの意見交換や原爆資料館の視察も予定される。被爆の実態に触れ、未来志向で平和のありようを探ってほしい。

 核廃絶に向けた取り組みは足踏みが続いている。NPT再検討会議は、ロシアの反対により最終文書を採択できず、2015年に続き決裂した。非保有国が取りまとめ、21年に発効した核兵器禁止条約には核保有国が反発を続けている。

 米国の核の傘に依存する日本政府も背を向け続けているが、国連総会に毎年提出している核兵器廃絶決議案で初めて条約の存在に触れた。決議案は147カ国の賛成で今週、採択された。核廃絶に向けて重要な条約である。賢人会議でもしっかり向き合う必要がある。

 岸田氏は再検討会議で日本の首相として初めて演説し、各国指導者に被爆地訪問を促すなど5項目の「ヒロシマ・アクション・プラン」を提唱した。賢人会議もその一環として来年のサミットにつなげるという。しかし、サミットがゴールではあるまい。継続的に会議を開き、英知を積み上げていくべきだ。

(2022年12月10日朝刊掲載)

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