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社説・コラム

『潮流』 海は誰のもの

■論説主幹 宮崎智三

 海の向こう、遠い島々からも異論が聞こえてきた。

 東京電力福島第1原発事故の汚染水の問題である。政府と東電は、主だった放射性物質を多核種除去設備(ALPS)で取り除き、太平洋に流す方針だ。

 ただ漁業関係者を含む周辺住民には理解どころか、今も根強い反対がある。

 加えてマーシャル諸島をはじめ太平洋諸島の人々が異議を唱えているという。世界の核実験被害に詳しい明星大教授の竹峰誠一郎さんの講演をオンラインで聞き、教えてもらった。

 海を生活の糧にしている太平洋の島民たちには、海洋放出に関して、日本からの連絡や相談はなかったそうだ。影響を受けるかもしれないのに、知らないうちに決めるとは、島民を軽んじていると言えよう。

 米自治領の北マリアナ諸島の議会は決定を非難する決議を採択した。オセアニア地域の協力機構「太平洋諸島フォーラム」は重大な懸念を表明。安全性について独立した専門家による検証を迫り、結果が出るまでは流さぬよう求めている。

 薄めるから安全だと東電側は説明する。しかし、その発想は前時代的だ。大気汚染や水質汚濁といった公害から得た教訓に反する。人体や環境に悪影響のある物質を出す際は、総量規制が必要だと学んだはずだ。

 しかも、放出は事故原発を廃炉にしない限り続く予定だ。廃炉はいつまでかかるのか、本当にできるのか、先は見えない。

 東日本大震災の津波で、東北からの漂流物は米国西海岸や太平洋の島々にも流れ着いた。海はつながっているから、当然だろう。

 「関係者の理解なしに、いかなる処分もしない」。汚染水の問題で東電の社長は以前、そう述べていた。  海は誰のものか―。太平洋諸島の問いかけに向き合わないまま、東電と政府は、社長の約束も海に流すつもりなのだろうか。

(2022年12月10日朝刊掲載)

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