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社説・コラム

天風録 『「戦」か「安」か』

ぶ。今年の漢字は「戦」だった。きのう京都・清水寺で大書されたその一字から滴る墨汁は戦地で流される血や涙を思わせた▲選ばれた理由は言うまでもない。ロシアのウクライナ侵攻だろう。米中枢同時テロが起きた21年前と同様、世界中に大きな衝撃を与えた。市民を含めて大勢の犠牲者が出ている。10カ月にも及ぶのに終わりが見えない▲ミサイル攻撃におびえる街で今、市民が凍えている。停電によって冬の寒さとの戦いも強いられる。できる支援を考えたい。とはいえ私たちの生活も苦しくなった。物価高と日々戦う生活者の視点から選ばれたか。コロナとの戦いも長引いている▲きょうは正月事始めである。新年を迎える準備に取りかかる日とされている。門松の材料や薪を切り出す「松迎え」や一年の汚れを落とす「すす払い」をしていく。侵略戦争を続ける権力者の心のすすも払えぬものか▲「安」が僅差の2位だった。真逆の感じを抱かせる2字が競り合うとは。円安や元首相から連想されたのか。1年後には内外とも平穏だったと振り返り、「安」が選ばれますように。

(2022年12月13日朝刊掲載)

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