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社説・コラム

社説 臨時国会と野党 「逃げ切り」の責任重い

 波乱の臨時国会が先週末に閉幕した。一時は必至とみられた会期の延長もなく、3閣僚の更迭で窮地に立った岸田文雄首相は胸をなで下ろしていよう。

 政府提出法案のうち95%が成立し、29兆円弱に膨らんだ補正予算もあっさり可決した。最後の懸案だった世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を巡る被害者救済法も野党の多くが政府案の修正を受け入れ、決着した。

 国会終盤は与党ペースに戻った感もある。野党第1党の立憲民主党をはじめ、会期延長を求めずに「逃げ切り」を結果的に許した野党側の責任も重い。

 ヤマ場となった衆参の予算委員会の審議が象徴的だ。閣僚の不手際、不祥事の追及に時間をかけ、辞任につなげる狙いは分かる。半面、巨額の予備費など疑問が残る補正予算のほか、防衛費の大幅増や原発の復権といった国政の重要懸案で首相をただす姿勢は物足りなかった。

 さらに言えば河井克行元法相夫妻の大規模買収事件を教訓とした歳費法改正や、国会議員の調査研究広報滞在費の透明化についても、議論に慎重な与党の姿勢を突き動かせなかった。

 それらを考えると、とりわけ立憲民主の存在感の薄さが気になる。泉健太代表の就任から1年、党支持率は低迷する。保守系やリベラル系が混在する党内では消費税減税を巡るスタンスや、敵基地攻撃能力の是非も含めた安全保障への向き合い方が定まっているとは言い難い。

 10年前の今ごろを思い返す。3年3カ月にわたり政権を維持した旧民主党は衆院選で惨敗を喫し、自民、公明両党に政権を明け渡して下野した。マニフェストと呼んだ公約の多くを守れなかった上に勢力争いから党が分裂し、政治不信を招いた。

 その後も野党勢力は迷走を重ねた。共産党などを除いて新党結成や離合集散、党名変更を繰り返し、自公政権の対立軸となり得なかった現実がある。その間に国政選挙で勝利を重ねた安倍政権の独走を許してきた。

 野党恐るるに足らず―。そんな受け止めは内閣支持率低下に直面する岸田政権でも、さほど変わるまい。旧民主の支持層は立憲民主、国民民主の両党にまた裂きされる。自公政権にも旧民主勢力にも一定の距離を置いてきた日本維新の会が野党第2党の勢力を維持し、政権の側は事あるごとに野党分断を図る。国民民主が今回も補正予算に賛成するなど、有権者からすれば構図が分かりにくい。

 その中で臨時国会では立憲民主と維新の共闘が注目された。被害者救済法への対応では維新の仲立ちで立憲民主は政府・与党に歩み寄った。大局的な判断をしたのは分かる。ただ維新との連携を重視し、直前まで批判した政府案を文言の手直しで容認した姿勢に、違和感を抱いた人たちもいよう。

 日本の政治における野党の在りようはさまざまだ。政権批判に徹する発想もあれば、時に与党と協力する「ゆ党」も悪いとは言い切れない。ただ曲がりなりにも政権交代を目指すのなら立つべき姿勢は明白だろう。

 目先の、あるいは小手先の政治戦略に腐心するより、将来を見据えた政策と政権構想を示して信頼を取り戻すことだ。日本が重大な岐路に立つ今、この10年のような野党迷走をいつまでも続けていいはずはない。

(2022年12月14日朝刊掲載)

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