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再編集で紡ぐ 新たな物語 東広島在住の写真家・藤岡亜弥さん 奈良で個展

幻想的な世界観凝縮

 東広島市在住の写真家藤岡亜弥さん(50)の個展「New Stories(ニュー・ストーリーズ)」が奈良市写真美術館で開かれている。10代から国内外で撮り続けてきた膨大なスナップ写真を洗い直し、新たな視点で再編集した。「いったん捨てた可能性を再び拾い上げ、新しい物語を紡ぐ試み」と藤岡さん。写実ながら、どこか謎めいて幻想的な世界観が凝縮されている。(渡辺敬子)

 呉市生まれ。日本大芸術学部で写真を学び、日常にレンズを向けてきた。これまで台湾で日本語を教え、欧州を放浪し、米ニューヨークに暮らしたことも。戦後70年のヒロシマを捉えた写真集「川はゆく」(2017年)と展示で、伊奈信男賞、林忠彦賞、木村伊兵衛写真賞に輝いた。現在は、地域おこし協力隊員を3年間務めた東広島市河内町小田を拠点とし、写真指導や地元の歴史をたどる記録誌作りにも取り組む。

 美術館では初の個展となる。「傷ついた風景の向こうに」のコーナーは、写真集「川はゆく」に収録しなかった作品や新作が中心。原爆ドームが写り込む26点で構成した。「平和のシンボル」は風景の片隅にさまざまな表情で溶け込み、見守るかのように、警鐘を鳴らすかのようにたたずむ。

 広島市を歩き始めたのは、米国から戻った2013年からだった。「見たものを撮っているのに、意識していないものも写っている。いろいろなところに記憶の断片が見えてくる」と藤岡さん。「ヒロシマを撮るのは、自分を見つめ直すことに似ている。思い込みや空虚な自分が写るように思えて、何度も立ちすくんだ」と振り返る。

 説田晃大主任学芸員(51)は「固定化された平和都市のイメージを崩し、変わりゆく街をさまざまな角度ですくい取る」とみる。「柔らかな問題提起や責任感がにじみ、異なる世代や地域の隙間をつなぐ力がある。広島の今を記録する最もふさわしい存在」と評する。

 「かわいいだけじゃダメかしら―my life as a dog」(1991~2013年)のコーナーは、「子ども」を選んだ大小の78点が並ぶ。電車の座席に倒れ込んだり、路地をとぼとぼ歩いたり。何げない表情からは、言葉にならない憂いや戸惑い、秘密めいた艶っぽさが漂う。

 世界で初めて写真画像を作ることに成功したフランス人ニエプスゆかりの地を訪ねた「ニエプス巡礼」(93年、7点)、いたずらっ子の犬が愛らしい「ホームアローン」(94年、6点)は初公開となる。

 これまでの歩みを俯瞰(ふかん)できる個展となった。藤岡さんは「つくり込むのではなく、目に見えた瞬間をつかまえてきた。これからも歩いて歩いて、撮り続けたい」と意気込む。

 2月5日まで。月曜、12月26日~1月3日、1月10日は休館(1月9日は開館)。奈良市写真美術館☎0742(22)9811。

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 「ホームアローン」の6点を今月18~30日、広島市中区本川町の書店「リーダンディート」でも展示する。18日午後5時から藤岡さんを囲む茶話会(1500円)がある。火曜休み。☎082(961)4545。

(2022年12月14日朝刊掲載)

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