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[2023広島サミット] 核軍縮の議論楽しみ 仏駐日大使 セトン氏に聞く

抑止力 現状では不可欠

 フランスのフィリップ・セトン駐日大使が、2023年5月に広島市である先進7カ国首脳会議(G7サミット)に向け、中国新聞の書面インタビューに応じた。核軍縮の議論に期待感を示す一方、不安定な国際情勢を踏まえ、現状では核抑止力が世界の安定に欠かせないとの見方も強調した。(編集委員・田中美千子)

書面インタビューの英語全文はこちら

  ―広島でのサミット開催をどう受け止めますか。
 今夏の平和記念式典に参列し、平和記念公園や原爆ドームの力強さと静穏さに心打たれた。広島は悲惨な運命を、世界平和を求める力強い声に変えてきた。復興し、過去を忘れず、未来へまい進している。訪れた人が学ぶことは多い。

 G7各国は、残忍な侵略戦争に苦しむウクライナを全面的に支援している。そんな中、戦争の惨禍を知るこの地でサミットが開かれるのは、非常に象徴的な出来事と言えるだろう。

  ―ウクライナに侵攻したロシアは、核兵器による威嚇を続けています。
 ロシアは1月、フランス、英国、米国、中国と共に「核戦争に勝者はおらず、決して戦ってはならない」という共同声明に署名した。危険で無責任なプーチン氏のレトリックは、これに矛盾する。フランスはこの声明の立場を堅持し、全ての他の核兵器保有国にも責任ある行動を求める。

  ―「核兵器なき世界」には賛同しますか。
 フランスは核拡散防止条約(NPT)の枠組みで、この目標に賛同している。核弾頭削減、核兵器に使われる物質の製造一時停止や製造施設の解体、包括的核実験禁止条約(CTBT)の署名も達成している。核軍縮は世界平和の実現に近づくために大切だ。他の保有国にも責任と透明性を持って取り組むよう求める。

 ただ核なき世界は長期的ゴールで、近づくには現実的であるべきだ。独裁的な大国が核兵器を持ち、開発を続ける間、民主主義国の非武装化を目標にすることはできないと考える。一方的に軍縮を進めることで他国に安全保障を委ね、フランスや同盟国を敵の暴力や核の脅しにさらすことはできない。北朝鮮や台湾、ウクライナ情勢などを考えれば、防御のための核抑止は世界の安全保障と安定に欠かせないと確信している。

  ―サミットではどんな議論に期待しますか。
 日本の首相は核軍縮を扱うと明言しており、議論が楽しみだ。ただ経済安全保障や気候変動、感染症対策などの世界の保健、ルールに基づく国際秩序を守るための協調なども国際社会の安定のためには重要だ。

 開発資金の問題は取り上げられるべきだ。特に環境問題により多くの民間資金を動かす、という本質的な議論をしないといけない。G7は食料安全保障でも成果を上げる必要がある。エネルギー問題も大事なテーマだ。(写真は©Jonathan Sarago-MEAE)

Philippe Setton
 1966年パリ生まれ。94年に仏外務省入省。欧州連合(EU)政治・安全保障委員会政府代表部大使、本省欧州局長などを歴任し、2020年10月から現職。

(2022年12月14日朝刊掲載)

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