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[2023広島サミット] 回顧2022 中国地方から <1> 広島サミット開催決定

被爆地の発信 期待増す

 夕日が差す瀬戸内海をバックに語る岸田文雄首相は、2023年5月に地元広島市で迎える先進7カ国首脳会議(G7サミット)の予行演習をしているかのようだった。今月11日、核兵器廃絶の道筋を探る国際賢人会議出席のため、サミット主会場候補でもある南区のホテルに駆け付けると、施設を視察。報道各社を前に「賢人会議を広島サミットの議論の充実につなげたい」と意気込んだ。

米大統領の支持

 22年5月23日、首相は広島サミット開催を表明した。東京・元赤坂の迎賓館であった日米首脳会談でバイデン大統領の支持を取り付け、直後の共同記者会見で「広島ほど平和へのコミットメント(関与)を示すのにふさわしい場所はない。核兵器の惨禍を人類が二度と起こさないとの誓いを世界に示す」と強調。原爆投下国の大統領と並んで被爆地開催を明かしたインパクトは大きかった。

 23年のサミットを巡り福岡、名古屋両市も誘致活動をしていた。宿泊面などで劣り、地元への「我田引水」ととられかねない広島市での開催を首相が判断するのか、いぶかる声が政界にはあった。皮肉にもウクライナに侵攻した核超大国のロシアが「核の脅し」を繰り返す中、被爆地開催の意義は増した。

 「客観評価は横一線だった。ウクライナの状況を考えれば、広島開催はメッセージになる」(政府関係者)。首相の意をくみ、政府は米国に加え、同じ核兵器保有国の英仏からも内諾を得ていた。

 広島県、市はサミット開催が決まると、首脳たちによる原爆資料館(中区)見学や被爆者の証言を聴く場の設定へ働きかけを強めた。6月9日に湯崎英彦知事や松井一実市長と面会した首相は各国との調整に当たる考えを示している。

問われる本気度

 ただ、G7は核保有3カ国と、米国の「核の傘」の下にいる日本など4カ国からなる。「保有国は圧倒的な発言力を持つ。被爆地の声をどれだけ聴けるか難しい」(外交筋)との声が漏れる。松井市長は今月13日にも官邸で首相に会い「被爆の実相に触れ、広島の思いを共有してアピールしてほしい」と求めた。「核兵器のない世界」へ進む成果を挙げられるか、被爆国政府の本気度が問われる。

 一方、広島の魅力が国内外へ伝えられるサミットは、新型コロナウイルス禍で冷え込んだ経済や観光の回復の一助になり得る。県内の官民でつくる広島サミット県民会議は、公式・関連行事で県産品を活用してもらおうと、農産物や加工食品、酒など1300点超のリストを10月に政府へ届けた。サミットを応援する地元企業や団体の取り組みは578件(12月9日時点)に上る。

 県民会議は、次代を担う若者の参画へ、カウントダウンボード作りなどを高校生に依頼。同世代のG7各国出身者との「ジュニア会議」も23年3月に仕掛ける。サミットに向けて自主的な学習に取り組む小学校もある。

 サミット会期に前後して厳しい警備態勢が敷かれ、交通規制なども見込まれる。それでも市民が「迎えて良かった」と思える成功体験を残せるか。開幕まで15日であと155日だ。

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 新型コロナウイルス禍が続く中、世界、国内、地方を揺るがす重大ニュースが相次いだ2022年が終わる。中国地方の視点から、この一年を振り返る。

先進7カ国首脳会議(G7サミット)
 1975年にフランス、米国、英国、ドイツ(当時は西ドイツ)、日本、イタリアで始めた。翌76年にカナダが加入。欧州連合(EU)も77年に前身の欧州共同体(EC)の時から出席している。首脳たちが顔を合わせ、経済や外交問題などを討議する。日本国内では7回目となる広島サミットは2023年5月19~21日にある。

(2022年12月15日朝刊掲載)

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