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社説・コラム

天風録 『いつか来た道』

 物価高が加速する年の瀬は例年になく寒さが身に染みる。なのに政治は国民の困窮など忘れたかのよう。防衛費増額を巡り与党内のごたごたが連日、伝えられている▲岸田文雄首相が突然打ち出した43兆円。この巨費の調達で増税だ、いや国債発行だとやり合う。だが増額がそもそも必要か。そこから議論を始めるのが筋では。根拠を欠く数字を独り歩きさせず、立ち止まって考えたい。国の将来も危うくなる、と▲先の大戦の暗い教訓が脳裏をよぎる。膨大な軍事費を戦争国債で賄い、日本は泥沼の道を突き進んだ。世界最大の戦艦大和が呉で建造され、就役したのは81年前のきょうである▲戦争の主軸は航空機による空中戦に移りつつあった。軍部が巨艦大砲主義にこだわって対応は後手に回る。大和がわずか3年半後に鹿児島県沖に沈んだのは皮肉な話だ。敗戦で国家財政は破綻。国債は紙くずになった▲バブル景気の世、大和への巨費投入を青函トンネル、伊勢湾干拓と並べて「昭和の三バカ査定」と言い放った官僚もいた。今回のどたばた劇はどうだろう。議論は生煮えではないのか。国民生活をどん底に突き落とした過ちを、令和の世で繰り返してはなるまい。

(2022年12月16日朝刊掲載)

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