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社説・コラム

社説 学術会議改革 独立性損ないかねない

 日本を代表する科学者で構成する「日本学術会議」について、政府が組織改革を進める方針を示した。

 会員選考に産業界など第三者の関与を盛り込んだのがポイントだ。自民党が提言した法人への移行は見送り、「国の特別の機関」の位置付けを維持するものの、3年後と6年後に必要があれば検討すると含みを持たせた。来年の通常国会で関連法の改正案の提出を目指すという。

 学術会議の独立性を損ないかねない内容だ。政府や経済界と一線を画し、科学的な見地から政策提言をする専門家集団が、政策にお墨付きを与える追認機関に成り下がっては存在意義がなくなる。会員から反発の声が上がるのは当然だ。

 学術会議は、210人の会員の半数を3年ごとに選ぶ。現会員が推薦した次期候補者を首相が任命してきた。海外でも同様の組織の多くが採用する選考方法で、学術上の評価の高い人材を選ぶ上で合理的と言えよう。

 これに対し、政府方針は産業界など外部からの候補者の推薦や、選考プロセスをチェックする第三者委員会の設置などを想定している。

 「首相による任命が適正かつ円滑に行われるよう必要な措置を講じる」とも明記した。内閣府は首相に実質的な任命権限があり、学術会議が推薦した候補の任命を拒否できるとの解釈を示す。選考への介入の意図があからさまではないか。

 そもそも組織改革の議論は、2年余り前に当時の菅義偉首相が、学術会議の推薦した候補のうち6人を任命しなかったことに端を発する。学術会議は声明を出すなど任命拒否の理由説明を求めているが、政府側は「一連の手続きは終了した」と繰り返してきた。

 岸田文雄首相に代わっても欠員補充はないままだ。選考方法の見直しを検討するにしても、政府が納得のいく説明をし、定員を欠く違法状態を解消してからだ。任命拒否問題をうやむやにするべきではない。

 学術会議に国民が求めるのはむしろ、政治や経済とは違う時間軸と広い視野からの冷静な提言や苦言、そして課題提示だろう。行政の向上や政策の検証に貢献してもらわねばならない。

 年間約10億円の国費を投じている組織でもある。活動や運営の透明性確保が求められるのは言うまでもない。学術会議は昨年4月、自主改革案を発表した。助言機能や情報発信力の強化、会員選考の透明性向上を柱に具体的な取り組みを掲げる。着実に実行してもらいたい。

 学術会議は科学者が戦争に加担した反省から、軍事研究はしない方針を貫いてきた。一方、政府は、防衛力強化や経済安全保障政策を念頭に科学界を軍事関連分野の研究に引き込む動きを強める。政府の方針は、そうした背景と無縁ではなかろう。

 資金不足に悩む大学の研究者や民間企業が、軍民両用で利用可能な「デュアルユース」技術の研究開発に手を上げるケースも少なくない。

 学術会議は21日の総会で政府方針への対応を取りまとめる。学問の自由を守るため、学術と政治・経済のあるべき関係を議論し、国民に示す必要がある。政府は独立と自律の価値を損なわぬよう、自主的な改革の後押しに徹するべきだ。

(2022年12月16日朝刊掲載)

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