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連載・特集

続 年金もらい忘れていませんか? 柴田友都 <8> 英女王のドレスの絹糸 手がかり

 2021年、尾道市のN香さん(58)から電話をいただきました。香川県で1人暮らしをする義母R子さん=1936(昭和11)年生まれ=の年金相談です。

 R子さんは中学を卒業して約5年間、愛媛県の絹織物工場で働き、懸命に生活してきたそうです。N香さんが夫のO介さんに相談すると、R子さんは国民年金の受給だけで、独身時代に働いたころの厚生年金はもらっていないとのこと。工場に勤めた当時の年金が見つかればと思い立ち、R子さんの了承を得て私に連絡をくださったのです。

 N香さんに相談書類を送ると、O介さんが香川県の実家に近く帰省するとのこと。その際にR子さんと確認しながら記入してもらうようお願いしました。後日返送された書類には「織物工場、愛媛県野村町」と書かれていました。これを基に調査を始めると、年金事務所から「同姓同名の年金記録があります」との回答を受けました。

 早速、N香さんに電話で告げ、R子さんに勤務当時について詳しく聞いてもらうことに。数日後、英国のエリザベス女王2世が戴冠式でまとったドレスに、勤め先の工場の絹糸が採用されたというエピソードが舞い込んできたのです。さらに、工場は一般の会社ではなく、農協のような組織であることも判明しました。

 ただ、組合名が分からないと年金受給に結び付きません。さまざまなアプローチを試み、愛媛県西予市の織物の記念館に問い合わせてつかめたのが「東宇和蚕糸農業協同組合」。調べたところ、R子さんの51(同26)年4月~56(同31)年10月の厚生年金加入期間の記録が見つかりました。N香さんに報告すると、「母も喜ぶと思います」と弾んだ声が返ってきました。

 R子さんの口座には約530万円の年金が振り込まれ、2カ月ごとの年金額も約4万円増えることになりました。お礼の電話がR子さんからあり、私は「お嫁さんのおかげです。感謝してくださいね」と伝えました。離れて暮らす義母に思いをはせた「お嫁さん」の大手柄の相談ケースです。(年金コンサルタント)

柴田さんの連絡先
 〒333―0802埼玉県川口市戸塚東4の25の4、産友社会保険労務士事務所。☎048(296)2075、ファクス048(296)5914

(2022年12月16日朝刊掲載)

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