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防衛費より社会保障を 原爆の結果受け止めて 安保3文書 閣議決定

中国地方の有権者 懸念や批判

 再び戦争をする国になりかねない―。政府が新たな防衛力強化に向けた「国家安全保障戦略」など安保関連3文書を閣議決定した16日、中国地方の有権者からは安保政策の歴史的な転換と国民の負担増に対し、懸念や批判の声が相次いだ。国民の暮らしが疲弊する中での増税に丁寧な説明を求める声も上がった。

 「防衛力の強化は外交の説得力につながる」。岸田文雄首相(広島1区)はこの日の記者会見でそう強調したが、お膝元の広島市では冷ややかな見方も広がった。南区の会社員塚本明日香さん(35)は「被爆地選出の岸田首相が決めたというのが納得できない。諸外国へも大きな影響を与えるのでは」と推し量る。

 文書では防衛費の大幅増のシナリオを描く。物価高や新型コロナウイルス対策など重要課題が山積する中での決定に、福山市の主婦広中和子さん(61)は「防衛より生活に身近な教育や社会保障に予算を充ててほしい」と求める。

 法人税やたばこ税、所得税の増税で財源を賄う方針への異論も相次いだ。南区の会社役員畑道幸さん(75)は「社業に影響が及べば、賃上げを見送らざるを得ないかもしれない」。三次市の滑(なめら)利成さん(78)は「増税するなら急いで閣議決定せず、国民が納得できる説明が必要では」と、十分な議論を経ないままの決定に首をひねった。

 北朝鮮のミサイル発射や中国の軍備増強を踏まえ、政府方針に理解を示す声も。呉市の商店主細野修平さん(55)は「脅威が高まる中でセキュリティーのレベルを上げるのは当然」。岩国市の藤井重信さん(73)は「基地がある岩国では北朝鮮や中国の脅威を身近に感じる。ミサイルから国民を守れる力を付けなくては」と危機感を募らせる。

 一方で、反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有や米国製巡航ミサイル「トマホーク」購入をうたう決定が周辺国を刺激するとの見方も強い。益田市の会社員山本太一さん(43)は「中国や北朝鮮には日本が先制攻撃してくるかもしれないと映るのでは」と案じた。

 被爆者からは軍拡競争につながりかねないとの憤りの声も上がる。原爆資料館(中区)の元館長で被爆者の原田浩さん(83)=安佐南区=は「再び戦争をする国になってしまうようで恐ろしい。戦争や原爆がどれほど悲惨な結果をもたらしたのか。体験をしっかり受け止めて政策を考えてほしい」と訴えた。

(2022年12月17日朝刊掲載)

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