×

連載・特集

2023広島サミット あと150日 G7考えるフォーラム 詳報

真の安全・平和 問う

 2023年5月に広島市である先進7カ国首脳会議(G7サミット)は20日で開幕まで150日となった。私たちは、この国際会議にどう向き合えばいいのだろう。広島県内の官民でつくる広島サミット県民会議と中国新聞社が6日に中区の広島国際会議場で開いた「G7広島サミットフォーラム」にヒントが詰まっていた。約1300人が来場。ジャーナリストの池上彰さんの基調講演と、識者たち3人を交えたパネル討議から考える。(山本洋子、田中美千子、榎本直樹)

<パネリスト>
ジャーナリスト 池上彰さん
広島大平和センター准教授 ファンデルドゥース瑠璃さん
一般社団法人福山青年会議所直前理事長 宇田貴美さん
一般社団法人志摩市観光協会会長 西尾新さん
(文中敬称略)

<コーディネーター>
中国新聞社ヒロシマ平和メディアセンター長 金崎由美

基調講演 核の脅し「ノー」 アピールを

ジャーナリスト 池上彰さん

 そもそもサミットって何だろう。第1回は1975年、フランス・パリ郊外のランブイエという城で開かれた。当時、世界経済は大変な不況。ニクソン・ショックで円高になり、73年にはオイルショックが襲来した。フランスのジスカールデスタン大統領(当時)が「先進国の首脳が集まって世界経済はどうあるべきかを議論しよう」と言い、アジアで急成長していた日本が呼ばれた。やっと先進国の仲間入りをしたと、誇らしい気持ちになった。

 東西冷戦が終わり、新しい世界秩序をどうするかもテーマになった。平和になるかと思えばテロが次々に起きる。経済ばかりではなく、テロとの闘いや地球温暖化対策と、議論するテーマがどんどん広がった。

 ドイツのエルマウサミット(2022年)はロシアによるウクライナ侵攻にどう対処すべきかや、気候変動、エネルギー問題、保健が大きなテーマになった。食糧の安全保障もだ。ウクライナが侵攻を受け、小麦を輸出できない事態が起きた。中東やアフリカ諸国はウクライナの小麦が頼り。食糧を巡って国際情勢が不安定になる。こんなところにも影響が出る。

 ジェンダー平等も議論された。男女が社会でも家庭でも平等であるべきだということ。日本はジェンダーの指数が(G7で)最下位。来年また議論されることになり、どれだけジェンダー平等を実現できるかが日本に突き付けられている。

 3日目の議論はデジタルだった。新型コロナウイルス禍の2年半、日本がいかにデジタル化から遅れているかを痛感した。緊急事態宣言が初めて出た時、在宅を呼びかけても会社に行かなければならない人が大勢いた。「はんこをもらうため」という情けない状況。日本がどれだけデジタル化を進められるのか。広島がデジタル先進県になるかどうかも大きな課題だ。

 来年1月から日本がサミットの議長国になる。「シェルパ」と呼ばれる事務方が参加国を回り、何をどう議論するかを詰めていく。

 そこでは、広島で開かれるから平和記念公園(広島市中区)に行ってもらおうと考えるわけだが、米国、英国、フランスは核兵器を持っている。核抑止力があるから戦争にならなくて済んでいると考える人からすれば、「なぜ広島で核兵器をなくそうという話に参加するのか」となりかねない。どれだけ実のある議論ができるかはシェルパの力にかかっている。

 海外から来る大勢のメディア関係者にも平和記念公園や原爆資料館を見てもらいたい。あの時、広島で何があったのか。広島の人たちがどうやって街を再建し、平和への取り組みをしてきたのか。みんなに知ってもらう絶好のチャンスになる。

 ロシアのプーチン大統領は核兵器の使用をちらつかせて脅した。あってはならない。こういう時だからこそ広島に世界の首脳が集まり、平和への決意を固めるのがとても大事だ。戦争の危機だけではなく気候変動、感染症もある。本当の意味での安全、平和とはどういうことなのか。それを議論し、世界にアピールするのが広島サミットになる。

いけがみ・あきら
 1950年長野県生まれ。73年にNHKに記者として入り、松江や呉、報道局社会部に勤務。94年~2005年に「週刊こどもニュース」キャスター。05年に独立した。東京工業大など11大学で教壇に立つ。

G7サミット「基本の基」 トップ集う頂上会議/日本では7回目…

 「G7」は、7カ国グループ(グループ・オブ・セブン)の略称。1975年の初回はフランス、米国、英国、ドイツ(当時は西ドイツ)、日本、イタリアが参加した。翌76年にカナダが加入。この順番で、1年ごとに議長国を務める。欧州連合(EU)も77年、前身の欧州共同体(EC)時代から出席。大統領や首相たちトップが集う頂上会議という意味で、サミット(英語で山頂)と呼ぶ。

 東西冷戦の終結後はロシアをメンバーに迎え、98年から名称を「G8」に変えた。しかし、ロシアが2014年にウクライナ南部のクリミア半島を強制編入すると、反発した国々がロシアを締め出し、再び「G7」となった。

 日本での開催は79、86、93年の東京▽00年の沖縄▽08年の北海道・洞爺湖▽16年の三重県・伊勢志摩。23年の広島で7回目となる。議題は経済、安全保障、気候変動などが見込まれる。

 また、岸田文雄首相は22年5月に地元広島市での開催を発表した際、「広島ほど平和へのコミットメント(関与)を示すのにふさわしい場所はない」と述べた。核兵器を持つ米英仏3カ国の現職首脳が被爆地に集うのは初めて。広島県内の官民でつくる広島サミット県民会議は、首脳による原爆資料館の見学や被爆者との対話の場を設けるよう、日本政府に要望している。

 池上さんの基調講演と、4人によるパネル討議(ダイジェスト)の動画を広島サミット県民会議のホームページに掲載しています。

まちの魅力 見直し発信

パネル討議

受け入れの課題は

おもてなしの心 県全体で 安全確保へ事前調整必要

 金崎 2016年のG7外相会合やオバマ元米大統領の訪問を通じ、国内外から来訪者を受け入れる経験を積んできた国際平和文化都市・広島にとっても、サミットは異次元だ。開催までに何を考え、どう動けばいいだろうか。

 ファンデルドゥース 広島には二つの顔がある。一つ目は1945年8月6日、たった一発の爆弾に壊滅された被爆地というイメージだ。しかし、広島はそこで終わらず、脈々と命をつないできた。産業が豊かで何を食べてもおいしい、どこに行っても楽しい街だ。国内外から訪れる人たちにどちらの顔も見てほしい。

 海外の人々と交流すると、ヒロシマとの出合いがいかに強く胸に残るものかと気付かされることが多い。ただ被爆地に生きる私たち自身は、その歴史や魅力をどれだけ知っているだろうか。サミットを機に一人一人が足元を見つめ直し、自信を持って「私の広島」を発信してほしい。

 宇田 福山市からも平和の尊さを発信したい。戦時中、空襲で市街地が焦土と化した。「荒れ果てた街と心に潤いを」と市民自らバラを植え始めたのが、「100万本のばらのまち福山」の原点だ。ボランティアが今も地域の花壇でバラを育て、5月には咲き誇る。ひろしまフラワーフェスティバルの会期に合わせて、福山産のバラのアーチを平和記念公園(中区)に飾ったこともある。

 サミットでは警備や設営を含め、何万人もの関係者が県内に宿泊する。広島市以外の市町も主体的に関わり、おもてなしの心で迎えたい。サミット後もリピーターとして訪れてもらえるまちを、県全体で目指していければいい。

 金崎 2016年の伊勢志摩サミット(三重県)を経験した西尾さんからも学ばせてほしい。苦労もあったのでは。

 西尾 志摩市は全市民を巻き込もうと、サミットを小中学校の学習に取り入れたり、カウントダウンボードやウエルカムボードを地元の高校生、住民有志に作ってもらったりした。観光協会は外国語対応の案内所を設け、商工関係者は地元産の海藻を使った土産物を開発した。県は18回も清掃活動を呼びかけ、多いときは数千人が参加した。県内各地を花で彩る活動も繰り広げた。

 注意点もある。サミットはあくまで国の事業だ。勝手なおもてなしは止められかねず、事前調整が要る。実際、安全確保のため撤去された花壇やのぼりがある。警備は厳しい。当日になっても詳しい情報が入らない。警察官の動きを見ながら判断するよう言われる。本番は先なのに「宿泊や飲食施設が使えないらしい」といった風評被害も出かねず、しっかりPRした方がいい。

 良かったのは次第におもてなしの意識が広がり、盛り上がったこと。小中学生は警察官に会うたび「お疲れさまです」などとあいさつし、関係者から喜びの声がたくさん寄せられた。

 池上 相手に歓迎の気持ちが伝わるのが大事だ。サミットには海外からたくさんの人が訪れるが、英語を話せなくてもいい。外国ではエレベーターに乗ると知らない人でも「ハーイ」と声をかけ合い、敵意がないとのサインを送る。そういう心構えを持っておきたい。

どんな地域を目指すのか

高まる郷土愛 大きな財産 復興の歴史 世界の希望に

 金崎 次のテーマは「サミットの後」。サミット開催を通じて、私たちはどんな地域を目指すのか、いかに被爆地として発信力を高めていくのか。伊勢志摩サミットの効果や地域の変化など、西尾さんに開催後の歩みを聞きたい。

 西尾 地元が当たり前と感じているものを素晴らしいと言われて郷土愛が高まり、子どもたちの誇りになった。大きな財産だ。

 観光客数も増えた。ホテルで首脳に提供したフランス料理について、当時の安倍晋三首相が「伊勢エビのスープがおいし過ぎて、話を聞いてもらえなかった」と漏らしたエピソードが広がるなどした。夕食で提供した三重の地酒も、人気が続く。全国から集まった警察の皆さんは、後に家族と旅行に来てくれた。来年のG7交通大臣会合が決まるなど、海外の会合も増えている。

 宇田 広島駅を歩いたが、福山で作られた土産が少ない。大きな機会損失だ。おもてなしに加え、自社製品に触れてもらうチャンスと捉える必要がある。

 2025年の世界バラ会議福山大会を見据え、広島サミットを自分ごととして盛り上げたい。一人一人が考え、話題にするだけで参画意識が高まり、世界に発信する機運が高まる。

 金崎 平和文化都市として、サミットによる知名度の高まりを中長期的にどう生かせばいいか。

 ファンデルドゥース 広島市との研究で、「広島の二つの顔」に触れ、さらに深く知りたいと思う人たちがリピーターになると分かった。灯籠流しをきっかけに広島にはまった人もいる。コロナ禍などでつらい思いを抱える人は世界中にいて、立ち上がる力を求めている。それが広島にはある。復興を遂げたレジリエンス(回復力)は、福山のバラにもつながる。

 意外に若い世代は戦争や平和への関心が強い。広島をもっと深掘りしたくなり、来るたびに新たな魅力に出合い、また訪れる。深く知れば知るほど、生きる力のDNAが育つ。普遍的な平和の道筋を共に考える地としての広島を高めたい。

 池上 草木が生えないと言われた広島は、見事に復興した。ウクライナの人たちにとって一つの希望ではないか。街がどれだけ破壊されても、命があれば新たに創り出せるのだと。

 平和記念公園以外を訪れる魅力も伝えたい。一人一人が広島の魅力を伝える語り部になろう。

 ファンデルドゥース 当事者意識を持って行動したい。私たちは、山頂への歩みを支えるシェルパ。サミットのロゴ入りピンをボランティア講習などの参加者に配り、「市民シェルパ」を広げるのもいい。

 宇田 家族や職場でサミットを話題にしてほしい。私は、福山の良さをいかに伝えるかを考え、PRしたい。自慢したくなる広島の良さを再発見しよう。

 西尾 世界には今、人々を分断して敵味方に分けようとする動きがある。世界への発信力を持つ広島サミットで、人々がつながり、仲間になる大切さについてメッセージを打ち出してほしい。

ふぁんでるどぅーす・るり
 広島市中区生まれ。英シェフィールド大(社会科学)とケンブリッジ大(応用言語学)の各博士課程修了。両大研究職を経て2019年から現職。専門は実証記憶学で、戦争の記憶を平和に生かす方策を研究。

うだ・たかみ
 1985年、福山市生まれ。2008年、家業の宇田製菓に入社。12年に福山青年会議所に入り、21年に理事長。22年から現職。18、19年には、福山ばら祭を主催する福山祭委員会の企画実行委員長を務めた。

にしお・しん
 1960年、三重県生まれ。志摩市のビルメンテナンス会社社長をはじめ、市内の複数の会社の役員を務める。2014年から現職。16年の伊勢志摩サミットでは、市民会議の未来に続く志摩づくり部会長を務めた。

(2022年12月20日朝刊掲載)

年別アーカイブ