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連載・特集

中国地方2022回顧 <中> 文芸

文学資料の行方 議論に

読者との交流 徐々に復活

 広島ゆかりの児童文学者鈴木三重吉、被爆作家原民喜をはじめ、文人たちが残した直筆原稿や関連資料をどう保存し、次世代へ継承するべきか。広島市中央図書館(中区)の再整備計画が持ち上がる中、3万点余りに及ぶ同館保有の「広島文学資料」の行方に関心が集まった。

 市は9月、中区のこども図書館を現在地に残す方針を示した一方で、中央図書館については商業施設エールエールA館(南区)へ移転する考えを維持。広島文学資料に関しては今月、「将来、資料が増えれば文学館も検討の中に入る」とした。ただ、A館へ移すという基本姿勢は変えていない。

 識者や関係者からは「市は貴重な資料を次世代へ受け継ぐ責務がある。つぎはぎだらけの政策でいいのか」「商業施設で歴史資料を保管できるのか」といった指摘が相次いだ。今後も議論を尽くす必要がありそうだ。

 文人らの未公開の直筆資料が、各地で見つかった。「広島文学資料保全の会」(中区)の事務室では、原爆詩人峠三吉が知人女性に宛てた書簡約50点が出てきた。峠が心の叫びをつづった貴重な資料だ。生誕160年・没後100年を迎えた文豪森鷗外の関連資料発見のニュースも目立った。

 鷗外の故郷である島根県津和野町では、足跡をたどる企画展や作品を読み継ぐ試みが盛んに繰り広げられた。三重吉は生誕140年を迎え、遺族たちが6月に中区で法要を営んだほか、市中央図書館が11月から企画展を開催している。

 新型コロナウイルス禍で途絶えていた文芸関連のイベントも活発化した一年だった。広島市在住の芥川賞作家小山田浩子は初のエッセー集「パイプの中のかえる」の刊行を機に中区の書店でサイン会に出席し、読者らと交流。尾道市出身の作家湊かなえも「湊かなえのことば結び」の出版に合わせ、福山市内の書店でサイン会を開いた。

 県内の書店員が地元ゆかりのお薦めの本を選ぶ「第12回広島本大賞」は、安佐北区在住の作家稲田幸久の「駆ける 少年騎馬遊撃隊」と、ジャーナリスト堀川惠子の「暁の宇品 陸軍船舶司令官たちのヒロシマ」が受賞。稲田は県内の書店を自転車と軽トラックで巡る「おれい旅」が話題を呼んだ。

 地元作家の訃報も届いた。第55回日本推理作家協会賞を受賞した尾道市立大教授の作家光原百合が8月に58歳で急逝。10月には広島市内の県立高吹奏楽部を舞台にした「ブラバン」がベストセラーになった作家津原泰水も58歳で逝った。

 第1回新人登壇文芸作品懸賞募集(現中国短編文学賞)で1席を獲得した作家小久保均は9月に92歳で亡くなった。70年代に著作が直木賞候補と芥川賞候補にノミネートされた。10月には、短編集「死の影」「私の広島地図」を刊行した被爆者の中山士朗が91歳で他界。晩年、ノンフィクション作家で被爆者の関千枝子(2021年に88歳で死去)と交流し、最期までヒロシマを書き続けた人だった。 =文中敬称略(桑島美帆)

(2022年12月21日朝刊掲載)

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