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基地に身柄 逮捕はせず 岩国所属の海兵隊員 車盗み事故疑い 専門家「日米地位協定の壁」

 米軍岩国基地(岩国市)の海兵隊員の男が12月上旬、岩国市内で車を盗み事故を起こしたとされる事件で、容疑者の捜査が進まず損害賠償を請求できないとして、被害者の男性(37)が憤っている。海兵隊員が基地に戻った後に事件が発覚したため、専門家は日米地位協定が壁になっていると指摘する。(有岡英俊、藤田龍治)

 岩国市などによると、海兵隊員が運転する乗用車が3日朝、市内の交差点で車に追突し、海兵隊員は車から降りて逃走した。事故の直前、市内の自動車販売店で、黒のニット帽を目深にかぶったTシャツ姿の男がガラスのドアを蹴り破って店内に入り、同じ車を盗む様子が防犯カメラに写っていた。

「逃走恐れなし」

 関係者によると、海兵隊員は事故現場から約300メートル離れた岩国基地に戻った。岩国署は容疑者を海兵隊員の男と特定したが逮捕せず、任意で事情を聴いている。悪質な犯行が疑われるのに海兵隊員はなぜ逮捕されないのか―。山口県警は「逃走や証拠隠滅の恐れがなく、逮捕の必要性がなかった」と説明する。

 日米地位協定では、公務中でない米兵の犯罪は身柄が米側(基地内)にある場合、日本側が起訴するまで引き渡さなくてもよいと定める。事故による損害賠償は、日米間で支払いを調整するとしている。

 地位協定や米兵の犯罪に詳しい沖縄国際大の前泊(まえどまり)博盛教授は「米兵が基地に逃げ込んでしまえば、警察が逮捕するのは難しくなる。身柄がなければ集中的に取り調べることはできず、証拠を隠す恐れもある。そもそも在日米軍人の起訴率は低い」と指摘する。

 ある捜査関係者は、車を盗んだ手口などから「過失ではなく故意。基地に逃げ込まなければ強制捜査に踏み切る事案」と話す。容疑者を逮捕しないことに複数の抗議の電話が県警にかかっているという。

納車翌日に被害

 盗まれた車はスポーツタイプの国産車で540万円相当。自動車販売店に勤める男性が自家用に購入したばかりで、被害に遭ったのは納車の翌日だった。岩国基地の関係者2人が15日、男性に謝罪に訪れた。車を盗んだとされる海兵隊員が日中は基地内で仕事し、仕事以外の時間は行動を制限されていると説明したという。

 男性は「修理代に100万円以上かかる。頑張って買った車だが、もう乗りたいと思わない」と憤る。「警察は容疑者を逮捕せず、基地側から弁済の見通しの説明もない。どこに相談すればいいのか」と途方に暮れる。

 岩国基地報道部は「容疑を真剣に受け止め、日本の捜査当局に全面的に協力している。現在調査中で、詳細については説明を差し控えたい」としている。

日米地位協定
 日米安全保障条約に基づき、日本に駐留する米軍と軍人・軍属、家族の法的な地位と基地の管理・運用を定めた協定。1960年に発効した。日本国内の施設・区域の使用について米軍に大きな権限を認め、日本の主権は事実上及ばない。95年に米兵による沖縄少女暴行事件が起きたのをきっかけに日米両政府は協定の運用を見直し、補足の協定を結ぶ対応をしてきた。しかし協定は一度も改定されたことがなく、日本国内で「不平等だ」と改定を求める声は根強い。

(2022年12月21日朝刊掲載)

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