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「放影研60年」 第5部 提言編 <4> 全国被爆二世団体連絡協議会前会長 平野伸人氏

多角的な遺伝調査必要

 原爆の放射線が被爆二世に与える遺伝的影響を調査していた放射線影響研究所(広島市南区、放影研)は二月、「被爆者の子と非被爆者の子との間に統計学的有意差はなかった」との結果を発表した。しかし、影響の有無が明らかになったわけではなく、被爆二世の不安はぬぐえない。長年、放影研に声を届けてきた全国被爆二世団体連絡協議会前会長の平野伸人氏(60)=長崎市=は「放影研は存続のための調査ではなく、未来の人類のための二世調査継続を」と訴える。

  ―放影研が発表した調査結果をどうみますか。
 予想通りの結果だったが、今後の調査への期待が半分、疑問が半分という状態が続いている。  私たち二世は遺伝的影響について科学的な判断を求め続けてきた。私自身、高校二年の時、同じ被爆二世の幼なじみを突然の白血病で失った。全体で比較すれば「影響がある」とは言えなくても、個別には「影響がない」とは思えないようなケースもある。誤解や偏見による二世への差別を拡大させないためにもきちんと解明してほしい。

  ―調査に対する反対もありましたね。
 厚生労働省は常に被爆二世への遺伝的影響に否定的な見解を示しており、それが二世への援護対策を遅れさせていると感じている人も多い。だから厚労省が所管する放影研が実施する二世調査は援護策を避ける国の主張の裏付けに利用されるのではないかと、最初は不安だった。

 しかし、協議を続けた放影研自体は誠意を持って二世の要望を聞いて対応してくれた。二世もいつまでも若くはない。今を逃せば解明の機会を失うことにもなりかねないので協力した。

    ■□■

  ―放影研は二世調査を継続する方針です。
 遺伝的影響が科学的に証明されるには母集団の数が足りないなど疫学上、困難なのは承知している。調査継続は絶対に必要。今回の調査は生活習慣病に限った極めて一面的な調査だった。生存者だけでなく、被爆二世がどんな原因で亡くなっているかなど死亡者の調査も必要ではないか。最初から「遺伝的影響はない」との仮定に立たず、幅広く多方面から調査をしてほしい。

  ―財政難で放影研の長崎研究所は一時、閉鎖も取りざたされました。
 長崎と広島は同じ被爆地でも原爆の種類や地形が異なるなど違いがある。両被爆地で被爆者や市民の思いに沿った研究を続けるべきだ。

    ■□■

  ―放影研に何を期待しますか。
 前身の原爆傷害調査委員会(ABCC)の強引な調査に良い印象を持っている人は今もいないと思う。私たちが当初、二世調査の動機を疑ったのもそのため。今後も二世調査の目的が「放影研の存続」「研究のための調査」であれば「やはりモルモット扱いだった」ということになる。

 遺伝的影響の解明は、放射線から身を守るため、人類の利益につながると信じている。調査対象としての私たちの責任も大きい。徹底的に調べてもらい、「二度と被爆二世をつくってはならない」と核兵器廃絶の国際世論を動かすような研究機関であってほしい。(森田裕美)

放影研の遺伝調査
 前身のABCCは発足まもなく広島、長崎の新生児約7万7000人を対象に障害の有無などの調査をした。1967―85年に約1万6000人を対象にした染色体異常の調査や75―84年には血液タンパク質の調査(約2万3000人)を実施。2月に結果を発表した生活習慣病調査(約1万2000人、2001―07年)も含め、いずれも被爆二世に異常が多いとの結果は出ていない。放影研は「疫学調査には限界もあり、影響はないと言い切ることはできない」として継続調査に努力する姿勢を示す。

(2007年10月13日朝刊掲載)

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