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連載・特集

呉の美術 激動の時代を越えて <4> 朝井清「広島の夕焼」(1945年ごろ、原爆資料館蔵)

原爆投下翌日 悲嘆刻む

 版画家の朝井清(1901~68年)は、原爆投下の翌朝、爆心地付近に住む姉を捜しに広島市に赴いた。捜し疲れて座り込んだ時、美しい夕焼け空が眼前に広がった。同時に、大破した産業奨励館(原爆ドーム)、累々と横たわる亡きがらが無情にも鮮明に浮かび上がったのだろう。

 その光景を記憶に留めるべく、帰宅後直ちに本作をリノリウム板に彫り、物資不足の中、油絵の具で刷った。荒々しい刀痕から画家の激しい悲嘆が感じられる。占領下の統制を恐れない朝井の創作姿勢に感銘した連合国軍総司令部(GHQ)民政官のフランク・シャーマンが、同作を購入したことが知られる。

 大正期から呉の美術を先導してきた朝井。敗戦の苦悩を作品に昇華させ、終戦翌年には早くも芸南文化同人会、呉美術協会に参画した。後に大判多色刷り版画で、棟方志功に「雄渾(ゆうこん)卓抜」と言わしめる大家となる。今に至る呉の美術の基底には、激変する時代の中で創作を続けた朝井のような美術家の存在がある。(呉市立美術館学芸員 宮本真希子)

 特別展「呉の美術」(中国新聞社など主催)は、呉市幸町の呉市立美術館で1月29日まで。火曜と年末年始(12月29日~1月3日)休館。一般1100円など。☎0823(25)2007。

(2022年12月23日朝刊掲載)

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